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2020/02/04更新

個が立つ組織 平和酒造4代目が考える幸福度倍増の低成長モデル

125分

2P

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自社の強みで勝負する

人口が大幅に減少し、今後日本酒の消費量がさらに減ることを考えると、大量生産の付加価値商品で売上を伸ばすには限界がある。これまでのような営業スタイルをとっていたら、平和酒造に20年、30年先はない。

会社の個性を掘り下げ、高付加価値の自社ブランドの開発が必要だ。平和酒造の強みはどこか。得意先や店に評価を聞いたところ、どこに行っても「おいしい」と話題に上がったのが梅酒だった。和歌山県は全国の梅の50%以上のシェアを誇り、梅の産地として名高い。そこで自社ブランドの高品質な梅酒をつくった。当時は県内でリキュールをつくれるメーカーは少なかった。競合が少なく、自分たちが勝てる可能性が高いところから始めた。

日本にあるすべての酒蔵がつくり出す酒には、明確な個性や特徴がある。ところが外から見ればどこも似たような印象になっている。銘柄ごとに味も香りも異なり、バリエーションが楽しめるのが日本酒の魅力だが、消費者にうまく伝えられていない。結果、業界全体が右肩下がりになっている。最初に考えたのは、この業界に埋もれることなくエッジを立てることだった。

縮小市場で成長するビジネスモデル

酒は一度飲んで評価を得られなければ、二度と振り返ってもらえない。ブランドという意味でも信頼が非常に大切だ。だからこそ、本当に消費者がおいしいと感じるものだけを売らなければならない。

そのためには、得意先や消費者に対して積極的に営業をかけて売上を伸ばすよりも、「長期的な視野でおいしい酒をつくる」というミッションを掲げ、まずそこに向かって一目散に努力していくことを選んだ方がいい。これは高成長を狙う大企業の選択肢にはない中小企業ならではの道ではないか。

「鶴梅」や「紀土」の発売に際しては、流通経路の見直しが成功要因の1つになっている。平和酒造はかつて、パック酒の製造をメインとしており、多くの酒蔵と同様、卸、小売店、消費者という経路で商品を販売していた。卸を通すことで小売店での取扱いが増え、比例して販売本数も伸びる。だが反面、売上を増やすための厳しい価格競争に常時さらされていた。

「鶴梅」や「紀土」は、パック酒のように大量生産を目指す商品ではない。そこで卸を通さずに小売店と直接取引し、さらに小売店を1つの地域で1店舗に限定することにした。評判の良い小売店にコツコツとアプローチした。

日本酒業界のように、右肩下がりの市場においては大量生産・大量消費時代の施策は役に立たない。必要なのは短期的な売上を伸ばすことではなく、商品の価値を理解した顧客に、買い続けてもらうことだ。長く愛される商品をつくるためには、メーカーと小売店の相互の繁栄と持続性に配慮したビジネスモデルが不可欠である。