プロティアン・キャリアとは
プロティアン・キャリアとは、米国ボストン大学経営大学院で組織行動学や心理学の教鞭を執るダグラス・ホール教授が1976年に提唱した概念である。「プロティアン」には、「変化し続ける」「変幻自在な」「一人数役を演じる」という意味がある。プロティアン・キャリアとは、変幻自在に形成するキャリアのことである。プロティアン・キャリアという考え方には3つのポイントがある。
①キャリアは組織に預けるものではなく、自分で育て形成する
②キャリアは昇進などの結果ではなく、生涯を通じた全過程である
③キャリアは変化に応じて、自分で変えることができる
私たちは組織の中で働いていると、一番大切な自分自身のキャリアについて、つい思考停止に陥ってしまう。組織が守ってくれると思うようになるからである。しかし、もうそんな時代ではない。
キャリアとは「結果」ではなく、個人が何らかの継続経験を通じて、能力を蓄積していく「過程」を意味する。これまでの経験の歴史でありながら、これからの未来でもある。
「関係性」を重視する
プロティアン・キャリアでは「関係性」を重視する。伝統的なキャリアは、1つの組織の中で自己を捉えてきた。一方で、プロティアン・キャリアは、職場や職場の外、趣味のコミュニティ、地域のコミュニティなどの「関係性」の集合として、「変幻する自己」を捉えている。それまで培ってきた経験と共に、新しい環境に合わせて、自らを変化させることである。
組織の中での経験を、次の組織にも生かしていく。今所属する組織の経験を、組織間の壁を越えてオープンにしていくことを通じて、よりやりがいを感じて働くことができる。
プロティアン・キャリア形成の軸
プロティアン・キャリア形成の軸となるのが、次の2つである。
①アイデンティティ
自分とは何者であるのかということ。大切なのは、自分らしく働いてアイデンティティを確立することと同時に、それが市場や組織から求められていることである。
②アダプタビリティ
環境や社会の変化への適応力。
仕事にやりがいを感じられないと思っている人は、アイデンティティとアダプタビリティが不均衡な状態に陥っている。1つの組織にキャリアを預けるのではなく、自分のキャリアを自分でプロデュースし、形成していくからこそ、主体的なキャリアが形成できる。
プロティアン・キャリアで大切にするのは「自らのやりがいや目的を達成したことで得る心理的な成功」である。
私たちが考えなければならないのは、ビジネスパーソンの様々な行動によって何が蓄積されるかということである。変化しながら、経験を蓄積する内面的な変身こそ、プロティアン・キャリアの本質である。