絶望的なピクサーの事業
ピクサーの事業は、写真に引けを取らない画質のコンピューターイメージを生成するレンダーマンソフトウェア、コマーシャルアニメーション、短編アニメーション、そして『トイ・ストーリー』というコードネームの長編映画と4本の柱がある。特許もいくつか所有していた。商売になる戦略があるとすれば、このあたりのどれか、あるいはその組み合わせになるはずだった。
レンダーマンは映画の特殊効果で使われるが、50社しか顧客と言えるところがない小さな市場だった。売れる年には千本ぐらい売れるが、一本3000ドルとしても300万ドルだった。
コマーシャル用アニメーション制作は、仕事が散発的でいつ入るかわからないし、予算はいつもありえないほど厳しい。30秒のアニメーションでも、3〜4人のチームで3ヶ月もかかるし、12万5000ドルほども費用がかかる。利益などごくわずかで将来性がなかった。
短編アニメーションはいくつも賞を受けるなど好評で、ピクサーを有名にした主因の1つである。だが短編アニメーションは、技術や物語構築のプロセスを試し、開発するために制作されるものだから、お金にならない。展示会や映画祭で上映されたり、映画館の本編の前に上映されたりするが、お金は一銭も入らない。なのに制作費は凄まじくかさむ。市場そのものがないのだ。
ピクサーの事業の中で『トイ・ストーリー』はわからないことだらけだった。4年近くも前の1991年にディズニーと合意した制作契約を調べていった。契約の対象は映画が3本で、3本目が公開された6ヶ月後に契約が終了する取り決めとなっている。最初の映画『トイ・ストーリー』は4年とちょっとで公開することを目標としている。2、3作目も同じ期間が必要だとすると、あと9年間は契約に縛られる。しかも契約には、独占条項があり、ディズニーの仕事以外にできないようになっていた。制作費用は、ディズニーが負担し、その上で映画の収益から一定の割合がピクサーに支払われる。しかし、最終的にピクサーの懐に入るのは10%にも満たない。『美女と野獣』や『アラジン』『ライオン・キング』といったディズニー史上トップクラスの興行成績を上げても、ピクサーは年間400万ドル程度の儲けにしかならない計算だった。
ピクサーの生き残り策
ピクサーが自立するためには、まず映画からピクサーが得る取り分を増やさなければならない。最低でも収益の半分。そのために制作費用の大半を自前でまかなう必要がある。株式を公開することで、制作費用をまかない、映画スタジオとして自立する資金を調達する。そして、制作頻度を上げ、ピクサーをブランド化する。
計画で要となるのは資金の調達だった。そのために株式公開しなければならなかった。