自分に問う
ドラッカー流のコンサルティングは問うことが基本である。彼は、クライアントと深く関わっていたが、問題を解決するのはクライアントだと考えていた。データを提供するのも、それを解釈するのも、コンサルタントではなくクライアントだと考えていた。状況を一番よく理解しているのはクライアントであり、ドラッカーが問いという形で道案内をすれば、適切なデータをクライアントが出してくるのだ。
そうなるのは、問いで揺さぶられてクライアントの頭が動き始めるからだ。問いが触媒となり、どれほど頭がよかろうが必死で仕事をしようが社外のコンサルタントなど束になってもかなわないほど事実やニュアンスを理解しているクライアントから、はるかに優れた分析や対策が出てくる。適切な問いを投げかけてやりさえすればいいのだ。
5つの基本的な問い
ドラッカーが必ず問うべきとする重要な質問は5つある。
①我々のミッションは何か?
ドラッカーは、クライアントに対し、どういう事業をしているのかを明らかにするよう求めた。そのためには、まず組織のミッションをはっきりさせなければならない。
②我々の顧客は誰か?
販売は、追跡し、誰が顧客であるのかを確認し続ける必要がある。
③顧客にとっての価値は何か?
顧客は売り手の想像とは違うものに価値を見いだすことが多い。
④我々にとっての成果は何か?
成果を測らずして進歩はない、というのがドラッカーの考えである。だから、成果について、ドラッカーは数字を求めた。ドラッカーは、意思決定において数字より胆力を重視すべきという立場だったが、成果は例外で数字を重視していた。
⑤我々の計画は何か?
ドラッカーは、組織の未来に向けた計画を描くにあたり、経営者は、まず3つの問いを考えなければならないという。
・どういう事業をしているのか?
・将来、事業はどうなっているか
・将来どうあるべきか
3つの問いに対する答えは互いに噛み合っていなければならない。現状の事業から一足飛びに将来あるべき事業の姿へと変わることはできないからだ。
無知を武器にする
様々な業界でコンサルタントとして成功できた秘訣はと尋ねられたドラッカーは、秘訣などない、正しい問いさえ投げかければいいと答えた。
コンサルティングする業界の知識や体験をもとに問いを投げかけたり対応したりすることはない。知識も体験も使わない。武器は無知。どういう業界のどういう問題であっても、それを解決しようとする誰かを助けるには、無知が一番大事な要素になる。
問題に対処する際、過去の経験から知っていると思っていることをベースにするのではなく、何も知らないと思ってあたるべきである。なぜなら、知っていると思っていることは、案外間違っているものだからだ。