オフショア開発拠点から研究開発拠点へ
バンガロールは、1990年代からインドのIT産業の中心地として発展してきたが、世界的に脚光を浴びるようになったのは、システム開発の下流工程を請け負うオフショア開発拠点としての側面だ。バンガロールは、特にシリコンバレーのIT企業に重宝された、インド人は英語ができるため、意思の疎通が図りやすい、シリコンバレーと13時間半の時差があるため「アメリカの夜中に、インドで作業をしてもらうことで、翌朝には成果物が仕上がってくる」という活用ができた。
そして、現在のバンガロールは、オフショア開発拠点としてだけの場所ではなくなっている。最先端のテクノロジーを用いた研究開発のような「上流工程」を行う戦略開発拠点へと脱皮しつつある。
バンガロールで最先端の研究開発がなされている理由の1つは、新しい分野の専門家が育てやすいことである。インドは最先端のITを理解し、モチベーションも高い若手の高度IT人材が桁違いにいる。毎年輩出される理工系学部の卒業生は約100万人おり、その中から20万人がIT業界に採用されている。
バンガロールにはIT技術者が100万人以上いて、このままの増加ペースでいけば、2020年には200万人を突破し、技術者の規模だけで言えば、シリコンバレーを抜いて、世界最大のIT拠点となる見込みである。高度IT人材の層の厚さもレベルも日本をはるかに上回っている。さらにこうした人材を安く雇えるため、彼らを一気に雇って、まとめて専門家として育てることが可能だ。彼らは英語で書かれた最新の論文などを読みこなすため、すぐに新しい技術をキャッチアップしてしまう。
このようなメリットがあるから、外国企業は、バンガロールの自社拠点や現地のITサービス企業を活用して、時代の一歩先をゆく研究開発を行なっている。また、バンガロールでは、スタートアップもアメリカ、イギリスに次ぐ世界3位にまで増えている。その背景には、起業家たちを支えるエコシステムが整備されたことがある。
バンガロール特有の強み
バンガロールやインドには、シリコンバレーにない強みがある。それは「新興国ならではのイノベーションが生まれる」ことだ。インドは「リバース・イノベーション」の拠点として脚光を浴びている。インドは、IT先進国として成長する一方、貧困や環境汚染などの社会問題が山積みしている国だ。課題解決するにあたり制約となる要素が多いが、この「制約の多さ」こそが、リバース・イノベーションの鍵となる。制約が多いと、通り一遍の解決策では通用しないので、自然とドラスティックな改善策を考えざるを得なくなるのである。その結果、今までの常識をくつがえすような商品やサービスが飛び出してくる。