自衛隊トップの役職である統合幕僚長を務めた著者が、自衛隊で行われている戦略立案の方法と、戦史を事例にした戦略の要点を紹介している一冊。
■相手の立場になって考える
軍事戦略・作戦を立てる時に自衛隊がまず行うのは、現状認識のための「情勢見積もり」である。この情勢見積もりの目的は「相手を知る」ことだが、具体的には相手の「能力」と「意志」を見極めることが必要になる。そこでは「相手の立場になって考える」ことが肝要である。戦略レベルの情勢見積もりになると、相手の指導者の生い立ちや性格、考え方といった情報も、見積もりの要素となる。
「相手の立場になって考える」時、まず自認すべきは「自分が何にとらわれているのかを考え抜く」ということである。例えば「相手はこうしたいと思っているのでは?」と考えた時、そこでなぜ自分はそう考えたのか、ということを問う。これは「自らのバイアスを外す」ということである。その状態に至るには、常に自分を冷静な状態に保っておく必要がある。
①「軍事戦略」を知らずに「戦略」は語れない
経営戦略の多くは、軍事戦略を経営に活用・応用したものである。よって、戦略の本質を深く理解するには、軍事戦略とは何なのかを知らなければならない。そのために戦史を学ぶことが大切である。
②有事でも確実に戦略を実行する方法論がない
戦略をどう実行するか。この領域には、社内政治、上下関係、部署の垣根を越えた社内コミュニケーション、嫉妬や好き嫌い、従来のやり方に固執する非合理などといった人間臭い、世界が横たわっている。有事になるほど、物事は混乱し、きれいな戦略は役に立たなくなる。戦略の実行にあたって、自衛隊では、統率の根本である指揮官と部下との相互信頼を大切にしている。
③地政学・地理学的リスクへの感度が低い
現代の特徴は、冷戦時代と比べて各国の経済的な相互依存度が圧倒的に大きい。すなわち、経済的依存度が、政治・外交・安全保障上の政策に影響を及ぼしたり、逆に政治・外交・安全保障の影響が経済政策や経済活動に影響を与える。
④日本人の「集合的無意識」を自覚していない
戦略立案において重要なことの1つは「相手を知る」時に、自分がどのようなバイアスにとらわれているかを客観視することである。その中でも最も堅固な「集合的無意識」というバイアスをも相対化して認識しなければ、本当の意味でのグローバル化を実現できない。
⑤「戦力回復」で生産性を上げる視点がない
戦略を実行する人たちは常に一定のモチベーションを保ち、いくら動いてもパフォーマンスが落ちない、常に人は合理的な行動をとるという前提に立っている。しかし、戦略を実行するのは「人」であり、その人はコンディション次第で大きくパフォーマンスが変わる。重要なのは、十分な休息・休養をとって鋭気を養うことであり、戦略実行のためには「戦力回復」という視点が入っていなければ、戦略は中途半端にしか機能しない。
著者 折木 良一
1950年生まれ。防衛大臣政策参与 防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。1997年陸将補、2003年陸将・第九師団長、2004年陸上幕僚副長、2007年第30代陸上幕僚長、2009年第3代統合幕僚長。 2012年に退官後、防衛省顧問、防衛大臣補佐官(野田政権、第2次安倍政権)などを歴任し、現在、防衛大臣政策参与。 2011年の東日本大震災では災害出動に尽力。12年アメリカ政府から4度目のリージョン・オブ・メリット(士官級勲功章)を受章
帯 一橋大学名誉教授 野中 郁次郎 |
日経トップリーダー |
マインドマップ的読書感想文 smooth |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
はじめに | p.1 | 4分 | |
第1章 なぜ経営学では「戦略の本質」を学べないのか | p.17 | 19分 | |
第2章 戦略に必要なすべては戦史が教えてくれた 1 | p.55 | 18分 | |
第3章 戦略に必要なすべては戦史が教えてくれた 2 | p.91 | 15分 | |
第4章 「きれいな戦略」だけでは、人も組織も動かない | p.121 | 15分 | |
第5章 ビジネススクールにはない「地経学」の授業 | p.151 | 16分 | |
第6章 日本人としての「集合的無意識」を自覚しよう | p.183 | 10分 | |
第7章 「休む」ことで戦略の成功確率は上げられる | p.203 | 15分 | |
おわりに | p.232 | 2分 |
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