史上最強と謳われるチェス・プレイヤーが、IBMのスーパーコンピューター「ディープ・ブルー」と対決した経験を語りながら、人工知能の考え方を紹介している一冊。
■人間と機械
人工知能とロボット工学の専門家が「モラヴェックのパラドックス」と呼ぶ理論によれば、大抵の場合、コンピューターは人間の苦手なことが得意で、人間はコンピューターの苦手なことが得意だという。これはチェスにも当てはまる。1988年にロボット工学者のハンス・モラヴェックは次のように語っている。「コンピューターに知能テストやチェッカー・ゲームで成人並みのパフォーマンスをさせるのは比較的容易だが、認識や運動については1歳児レベルのスキルを与えることすら困難か、あるいは不可能である」
人間のグランドマスターはチェス・マシンの弱点であるパターン認識や戦略的立案には優れていたが、コンピューターは最上級者でも研究に何日もかかる戦術上の問題をわずか数秒で割り出すことができた。45年にわたる挑戦の末、チェスの強いコンピューターを作ることは、人間の知性を持つ機械を作ることとは全く別であるのが判明した。ディープ・ブルーの知性は、プログラミングのできる目覚まし時計の知性とさほど変わりはなかった。
コンピューターは、人間なら瞬時にわかることであっても、その意味を理解する文脈を作るのに数百万以上の手がかりを探らなくてはならない。人間は適切な文脈を当てはめることを自然にできるが、機械知能は新たなデータに出くわすたびに文脈を構築しなければならない。膨大なデータを処理してやっと、擬似的な理解が可能になる。
チェス・エンジンが数十億の局面を解析して最善手を見つけ出すように、言語についても複数の意味やありそうなことに分解して反応を引き出せる。反応の精度は、コンピューターが速くなり、データの量が増えて質も上がり、コードが賢くなるほど向上していく。
著者 ガルリ・カスパロフ
1963年生まれ。チェス・プレイヤー 史上最強と謳われ、22歳でチェス世界チャンピオンになり、15年間タイトルを保持した。 1996年と1997年にIBMのスーパーコンピューター「ディープ・ブルー」と対戦し、世界的な注目を集めた。 2005年に公式戦を引退してからは、ロシアでの政治活動やチェスの普及活動に力を注いできた。近年は「人間と機械の意思決定」に関する研究活動にも熱心に取り組み、オックスフォード大学マーチン校の上席客員研究員や「責任を果たすロボット財団」最高諮問委員会のメンバーとしても活躍中。
帯 棋士 羽生 善治 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
序 章 | p.5 | 11分 | |
第1章 頭脳ゲーム | p.19 | 15分 | |
第2章 チェス・コンピューターの勃興 | p.39 | 16分 | |
第3章 人間対機械 | p.60 | 33分 | |
第4章 機械にとって重要なことは? | p.102 | 11分 | |
第5章 頭脳の中身 | p.116 | 17分 | |
第6章 いざ対戦の場へ | p.138 | 23分 | |
第7章 深み | p.168 | 45分 | |
第8章 ディープ・ブルー | p.226 | 17分 | |
第9章 盤上は火の海に | p.248 | 39分 | |
第10章 聖杯の探求 | p.298 | 29分 | |
第11章 人間プラス機械 | p.336 | 32分 | |
結 論 さらにまえへ、さらに高いレベルへ | p.377 | 12分 |
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