B2BとB2Cの境目が曖昧になっていく
産業部門にソフトウェアが「神経組織」のように張り巡らされ、データ分析の手法が普及すると、経済は今までとは全く違った段階に移行する。企業は、利ざやの薄い製品をマスマーケットで売るのではなく、代わりに、製品のスイッチを押した瞬間にソフトウェアを通じて需要を知らせてくれる一部の顧客に向けて、個人に合わせた製品を生産、販売するようになる。さらに企業は、デジタル技術によって、自分達が提供する成果を顧客がどのように利用するか、リアルタイムで知ることもできるようになる。
こうした変化の中で、B2B(企業間取引)とB2C(企業対消費者取引)の境目は曖昧になっていく。これが、産業のデジタル化の際立った特徴の1つである。扱っている製品やサービスが消費者向けか企業向けかとは関係なく、会社の命運を左右するのは、提供する成果の質であり、その成果こそが、会社の価値の唯一の源泉になる。
まもなく、私達がこれまで長く慣れ親しんできた、モノとしての製品は、ソフトウェアの入れ物に変わる。そして価値の源泉は、モノ自体から、それが提供するサービスの方に移っていく。
これによってビジネスにおける製品の扱い方も大きく変わる。個々の企業はエコシステムの一部として機能するようになり、これまでには考えられなかった相手と協調する時代がやってくる。
デジタル化を始めるための6つの必須能力
企業がデジタル化を始めるにためには、次の6つの能力が必須となる。
①製品・アプリケーションのライフサイクルとユーザー体験の同期
デジタル・トランスフォーメーションが始まると、製造装置や製品などのハードウェアと、それを制御するソフトウェアの陳腐化の速さの違いが際立ってくる。このギャップを埋めるために、両者の開発サイクルを早い段階で統合、同期させねばならない。
②ソフトウェア・インテリジェンスの組み込みとコネクティビティの確保
従来の「口のきけない製品」にソフトウェアを組み込むことで、作業員や製造装置、他のコネクテッドプロダクトとの接続性を確保する。
③自動でのフィードバックと、それに即座に反応する生産工程
生産工程の自動化は、一部であっても現場のスピードや柔軟性を向上させてくれる。
④アナリティクスの導入
接続機能を持った製品やその他の情報源から得たデータを分析して、経営判断に生かす。
⑤XaaSビジネスモデルへの移行
成果型エコノミーのもとでは、製品を「所有」することには意味がなくなり、消費者は必要な時にだけ、サービスという形で購入するようになる。
⑥エコシステム
IIoTが普及した後には、世界中に広がったボーダレスな企業が複数集まって、多層的なエコシステムを協調させながら事業を進めていくことになる。