本質的に良いものかどうかを、常に追究し続ける
「歴史ある企業の中で、変えることと変えないことの判断をどのように下し、今に至る道を築いてきたのか」という質問をよく受けるが、変えていいことと、いけないことを判断するのは簡単ではない。その時その時で真剣に検討して考えてきたものがある訳で、その結果が継続につながってきただけのことである。やってきたことが必ずしも成功だけではない。
「味は変えないのですか」とよく聞かれるが、「味は変わるものだ」と思っている。今、食べてくださる方に「おいしい」と思って頂かなければいけない。ということは極論すれば、今日と明日で違うかもしれないし、少なくとも数十年前とは違ってくるはず。ただ実際、どれくらい味を変えているかというと、さほど大きく変わっていない。というのは、最初に作った時に、相当吟味しているから、それを超えるおいしさが一朝一夕に作れない。ただただ「おいしい」というレベルを維持するためにどうするのかを、突き詰めてきた。その結果、あまり大きく変えずに今に至っている。
流行に惑わされない
エルメスの考え方に「長きにわたって愛用してもらう」というものがある。エルメスのものは、二代、三代にわたって使ってもらうことが少なくない。つまり、一過性の流行でデザインを変えることを良しとしては来なかった。バッグの「ケリー」や「バーキン」はどちらも50年くらい、ほとんどデザインを変えていない。「今シーズンはこの色や素材がトレンドだから作りました」ということを、エルメスはやってこなかった。そうではなくて、職人たちの美的感覚、質に対するこだわりを形にしてきた。
だから、エルメスのものづくりとは、マーケティングありきではなく、職人やデザイナーが「こういうものがあったらいいな」というところから始める。そういった積み重ねの結果、今のエルメスがある。では、どうやって新しい商品を世に送り出してきたかというと、年に2回、大きな展示会を行う。職人たちが作った新商品を20万点ほど並べるが、徹底して吟味していくので、半分以上は商品化に至らない。最終的にパリ本店に並ぶのは2割程度。選び抜かれた一握りの商品だけが、新たに世に出ていく。
ファッションとは怖いもので、ただ流行を追っているだけだと、最初の年は売れても、次の年に廃れてしまう可能性が高い。エルメスでは、そうやって売れ筋を確保していけばいいという考えを良しとしていない。