遺伝子を自由に操作する技術の開発が急速に進んでいる。医療や品種改良などの分野で注目されている革新的な技術「ゲノム編集」について紹介されている本。
■従来の遺伝子組み換え技術の限界
遺伝子は、私たちを作るための指示書のようなものである。この1つの生物が持っている全ての遺伝情報が「ゲノム」と呼ばれている。ゲノム編集は、このゲノムを編集して「遺伝子の情報を変えることができる」技術である。
「遺伝子の情報を変える」と聞いて、思いつくのは「遺伝子組み換え技術」ではないか。遺伝子組み換えは、外から別の遺伝子を組み込むことで、生物の性質を変えることができる技術である。動物の遺伝子に植物の遺伝子を組み込むなど、違う生物の遺伝子を入れ込むことができる。アメリカの食品医薬品局は遺伝子組み換えダイズやトウモロコシのほか、最近では遺伝子組み換えによって作り出された、早く成長するサケを食用に販売することを認めている。
品種改良を行う時に問題となるのは時間である。ただ変異原(化学物質や放射性物質)を使っただけでは、何万もある膨大な遺伝子のうち、どの部分の遺伝子が壊れるのかはわからない。狙った遺伝子を壊すためには偶然に頼るしかなかった。遺伝子組み換え技術を使った場合でも、何千回、何万回と実験を繰り返し、偶然に狙い通りの場所に入って遺伝子が働くのを待つしかなかった。
科学は発展し、遺伝子の基本的な構造がわかってきても、品種改良の基本的な考え方は大きくは変わっていない。自然に頼ってきた突然変異を、より早く促すために放射線や化学物質が使われるようになったが、偶然に頼りながら目的の方向に変化した個体を探し出して交配を重ねる問いうやり方だ。こうした突然変異育種は、長い年月と手間が必要な作業だった。
遺伝子組み換え技術は、生物の細胞から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、植物などの細胞の遺伝子に組み込み、新しい性質を持たせる技術である。この技術では、遺伝子を狙った場所に入れ込むことが難しい。特定の遺伝子を入れ込む作業を大量に行い、何千回、何万回と試した中からたまたま狙い通りに入ったものを選び出すしかなかった。
これを狙い通りにできるようにしたのが、ゲノム編集である。ゲノム編集を使うと、遺伝子の狙った場所を正確に操作することができる。
NHK大阪放送局と京都放送局で、2014年秋にプロジェクトチーム(東條充敏、松永道隆、宮野きぬ、野呂晋一、山下由起子を中心とする)を編成、ゲノム編集についての番組を制作。 2015年7月に放送された「クローズアップ現代」の「〝いのち〞を変える新技術 ~ゲノム編集 最前線~」は、大きな注目を集めた。
帯 京都大学iPS細胞研究所所長 山中 伸弥 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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第一章 生物の改変が始まった | p.19 | 17分 | |
第二章 ゲノム編集、そのメカニズム | p.47 | 19分 | |
第三章 起爆剤、クリスパー・キャス9~爆発的広がりをアメリカに追う | p.79 | 17分 | |
第四章 加速する「ゲノム品種改良」 | p.107 | 17分 | |
第五章 超難病はゲノムから治せ | p.135 | 21分 | |
第六章 希望と不安のはざまで〜困惑する研究現場 | p.169 | 24分 | |
おわりに | p.209 | 2分 |