ロボットがやってくる
世界のロボットビジネスの約70%は日本、中国、アメリカ、韓国、ドイツで行われている。日本とアメリカ、ドイツは高価な産業用ロボット及び医療ロボットの分野に強く、韓国と中国は一般消費社に近い比較的安価なロボットの主要生産国である。これら5ヵ国と他の191ヵ国との間にはかなり開きがあり、5ヵ国は高報酬の仕事と富の拠点となって莫大な恩恵を得るだろう。
自動化とロボティクスによって人の労働を置き換えようとする試みは、まず、危険で退屈で、しかも人同士のやり取りがほとんど必要ない分野で行われた。しかしその後、対人スキルが求められるサービス部門にもロボットはじわじわと進出している。かつては人間にしかできないと思われていた仕事、状況認識や空間把握と機転、文脈の理解、人の判断力が求められる仕事がロボットに委ねられ始めている。
サービスロボットを可能にした要因は、信念空間のモデリングが向上したこと、ロボットからクラウドへのアップリンクが実現した事である。データ解析が高度化され、ロボットの経験から蓄積したデータが指数関数的に増えた事によって、インテリジェントに環境とやり取りするロボットを設計できるようになった。さらにクラウドに接続する事で、今のロボットは他のロボットの経験も自分に取り込み、ものすごい速さで学習できるようになった。
現在のロボットは、かつてないほど小さく作れるようになった。ナノロボットはまだ開発の初期段階だが、将来的には1/10億mサイズの自律マシンが人の病気を細胞レベルで診断したりできるようになると見込まれている。
ロボティクスの今の瞬間は、インターネットが普及しはじめた20年前によく似ている。今の時点でロボットが人間と一緒に町を歩いていたり、隣の席で働いていたりする光景を想像するのは難しいが、我々の多くが生きている間に起きるだろう。
ロボットの新しい世代は製造コストの低下に伴って大量に生産される。最低賃金で働く人間とも競合していくはずだ。雇用形態を様変わりさせ、経済にも政治にも社会の風潮にも影響を及ぼしていく。
テクノロジーの進歩に伴って、ロボットは多くの職を葬り去る。同時に、新しい職をつくり出したり、莫大な価値を生み出したりもする。莫大な価値が公平に分配される事はないが、全体としては恵みであり、人間をもっと生産的な事に向かわせてくれる。
社会が安定し、強い競争力を持てるかどうかは、その社会が環境の変化に順応していけるかどうかにかかっている。新しいテクノロジーから最大の恩恵を手にできるのは、様子見を決め込まずに、変化にいち早く順応して、市民や社員を成長産業に向かわせる事のできる社会や企業である。