ホンダとトヨタの違い
ホンダとトヨタの一番の違いは、本社と世界中の工場やオフィスとの関係だ。トヨタは円滑に機能している時には、世界の従業員に、現場で自ら考え、問題の解決策を提案するように促すものの、究極の権限は日本にある。現地での決定は指揮系統を遡り、本社にある役員室の承認を得なければならない。対照的に、ホンダは分散型の組織であり、各施設での独立した意思決定が強みになっている。
トヨタが永久にリーン方式と結びついているのに対し、ホンダは明らかに自社を違った目で見ている。常識に対する疑問、リスクを怖れない事と失敗を調べる事から生じるイノベーション、開かれたコミュニケーション、現場でのコントロール、世界中の拠点の橋渡しとなる知識の蓄積。こうした特徴を備えた、起業家精神溢れる中小企業のような大手メーカーだと認識している。
ホンダの三原則
①パラドックスを受け入れる
ホンダは対立する力やアイデアをうまく活用して、戦略上、業務上の選択を行うが、パラドックスと付き合う能力を支えているのが、組織の自発性である。ホンダでは、一人ひとりの意見や提案は平等だ。賛成しても、愚かだと思っても構わないが、役職や地位がその判断基準になってはいけない。形式にとらわれない予定外の話し合いはホンダにとって不可欠で、至るところで行われている。この話し合いは「ワイガヤ」と呼ばれている。ワイガヤの目的は、様々な背景を持つプロの集団から、最も包括的でダイナミックで、独創的なアイデアを抽出する事にある。
②三現主義
三現主義とは「現場」に行って、「現物」を自分の目で見て、「現実」を知った上で判断する事だ。三現主義は元々ホンダが生み出したものではないが、ホンダは類を見ないほどそれを活用している。三現主義の中で最も重視するのは「現場」に行く事だ。現場に行かずに考えを示したり、意見を述べたりする者はいない。
③個性を尊重する
アイデアや手法について圧倒的なイノベーションが生み出されるのは、構造化されたシステムやルールの厳しい組織モデルに馴染まない社員がいればこそだ、とホンダは考える。どれほど事前に精緻な計画を立てても、彼らはそういう組織でうまくやっていけない。パラドックスの中でこそ生き生きと働ける社員。言われなくても常識的な方法に疑問を抱き、別の方法を考える社員だ。
そのため、ホンダが求めるのは、型にはまらない進路を見出し、少々常識はずれの人生を歩むタイプだ。かつて宗一郎は、採用するのに理想的な人物はと訊かれて「苦労人」がいいと答えている。