成城石井はいかにコンセプトを構築したのか
成城石井を始めるまでに、まず固めておかなければならなかったのは、Odakyu OXに対する競合対策だった。大量仕入れを行うチェーン店に価格競争を挑むのは、どう考えても勝ち目のない勝負であり、いかに差別化を図るかというのが課題だった。
成城石井の新店は85坪。対するOdakyu OXは、食料品だけで約200坪、雑貨なども含めると約400坪と、成城石井の4倍以上大きい店だった。しかし、チェーン店という事で、どの街にある店舗でも全く同じ品揃えをしている。という事は、必ずしも成城のお客様に合うような商品を置いている訳ではない。そこで考えたのは、Odakyu OXに売っていないものを成城石井で置き、両方の店で1店分の品揃えができれば良いということ。競合するのではなく、共存する方向性だった。
成城は、東京の高級住宅街として有名である。いわゆる普通の商品だけでは満足されない方も多かった。そこで、普通の商品を捨て、品質の良いものだけを扱う事にした。結果的に方向性は当たった。成城石井のような店は小田急線経堂や下北沢にない。評判を呼び、成城や近隣の街だけでなく、珍しい商品を求めて、東京中からお客様が来てくれた。他の店にはないものが充実しているという事が、成城石井に価値をもたらした。売れ筋だけに鉱脈がある訳ではなく、売れ筋を狙わないという選択肢もある。
自ら良いものを見つける
目指したのは「専門店の集合体」となること。すべて一級品を扱うというスタイルは、それぞれの売り場が専門店と同じだけのクオリティを持つ事を意味する。各部門には「一番良いものを売れ」という指示を出していた。一番良いものを手に入れるための基本は、まず自分で見て食べてチェックする事である。問屋の言うなりなど言語道断。自らの味覚、嗅覚、視覚、触覚など、全感覚を用いて判断しなければならない。
それから正しい情報を得る事である。良い店をつくるためには、1つ1つの商品に対して質の良い情報を持っていなくてはならない。1つ1つの部門を専門店化し、質の良い商品を並べていくためには、自分達が商品知識を身に付け、さらに情報を取る努力をして、見つけていかなければならない。そして経営者の課題というのは、情報網の組織化をいかに行うかという事である。
成城石井が支持された理由
成城石井がお客様に支持されたのは、高級なものを高く売る店だからではない。高い品質のものを抑えた価格で販売しており、コストパフォーマンスが良いからである。昔は高級食材というのは、デパートか専門店に行かなければ買えなかった。成城石井は、それら普通の街では売っていない高級食材を、デパートや専門店よりも低い価格で販売した。それが圧倒的な支持を受けた。