成果主義の失敗
売上を回復するには別の製品が必要だと考えた。そして、ハングリー精神を復活させたいと、成果主義に基づく人事制度を作った。しかし、この人事制度は、社員同士の競争を促進したため、今までにも増して他人の仕事を手伝わなくなった。また妙に低い目標を立てる人が出てきた。ボーナスも士気向上につながらなかった。売れ筋製品を扱う事業部は多額のボーナスを手にしたが、立ち上げ途中の新製品を扱う事業部は全員ゼロ。納得できない社員は辞めていき、2006年には離職率は28%を記録した。事業規模拡大のために、M&A戦略を進め、1年半で9社を傘下にしたが、業績の悪化も明確になった。
人間は理想に向って行動する
なぜ社員が辞めるのか。それは、辞める事で理想を実現したいからだ。例えば、もっと残業を減らしたい、もっとスキルが上がる仕事をしたい、もっと高い給料が欲しいなど。現在の会社の状況に満足せず、高い理想を持っているから、不満という感情が生まれる。対策は、その理想を聞き出し、実現するための課題を考え、それを遂行していけばよい。
この法則に気づき、サイボウズに一体感がない原因も理解できた。サイボウズには共通の理想がなかった。多様な人達をチームとして活かすためには、共通の理想が必要だ。社会の役に立っている実感を得ながら、自信と誇りを持って最高のソフトウェア作りに取り組みたい。「世界で一番使われるグループウェア・メーカーになる」、事業分野をグループウェアに絞り込み、買収した子会社の株式を売却した。
多様性を重視する
組織が何を目指し、どのような状態に変われば、チームワークが高い状態が作れるのだろうか。結果的に「多様性」を追求する事が楽しい事を引き起こし続けていた。この多様性を追求するにあたり、「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」という方針を掲げた。ミッションに共感してもらえるならば、週3日働きたい人でも、自宅で働きたい人でも、みんな仲間に加えられるのが理想だ。
多様性を実現するには、全体の理想に共感している必要がある。そして、マネジメントをするには、この人がどの距離で付き合いたいかを確認しながら、距離に応じた制度を用意しなければならない。
組織に多様性をもたらしながら、かつ秩序を守り、成果を上げていくには、メンバーに「公明正大」と「自立」という2つの事を求める必要があった。メンバーがそれぞれの理想を持っているからこそ、1人1人が自覚と責任を持つ必要がある。
多様な働き方を選択できるようにした結果、離職率は2013年には4%を切るまでになった。離職率が低下する事によって、採用と教育にかかるコストを低減できた。