借り物によることのない叡智
2005年9月、遺産、特に彼が書いたものすべてについて、ピーターと話をする事になった。彼は遺産についての議論を彼一流の簡潔さで終わらせた。「私は書き手です。遺産は私が書いたものの中にあります。私は組織を作りませんでした。それ以上何を話したいのですか」
最初の3つのセンテンスで彼の人生は正確に言い尽くされている。ピーターは人類社会の偉大なる観察者だった。彼は自らの名を冠する建築物や組織にも興味を持たなかった。こう言っているかのようだった。「遺産をどうするかについて特別な打ち合わせなんて全く必要ないよ」。彼は全生涯を遺産となる仕事にかけてきた。書かれた本には脚注などほぼなく、展開される思想は混じりけのない独創だった。借り物による事のない叡智による宝だった。
マネジメントの父
ピーターをマネジメントだけから考えると、彼が社会に対して行った真の貢献を見逃してしまう。ピーターは自らを「書き手」以上のものとはしなかった。その他一切の肩書きを受け入れる事はなかった。学究歴の初期のものとしては、バーモント州ベニントン・カレッジで政治学と哲学を講じた時期がある。数年後の1943年には自動車会社GMの体系的研究に着手し、その成果を著作『企業とは何か』として世に問うている。
その後ニューヨーク大学大学院ビジネススクールに移籍し、短期間ながらオーストリア人の同僚であった経済学者シュンペーターの話を聞いている。シュンペーターの言葉はピーターの人生を変えた。「書物や理論で人々に記憶されるのでは不十分だ。人の生き方を変えなければ、変化をもたらした事にはならない」とシュンペーターは述べたという。
ピーターのすべてがそこにあった。変化をもたらす事である。彼が活動したのはビジネスの世界だったが、その目線はさらに広大な世界に向けられていた。「いかなる組織もそれ自体で存在するものではなく、かつそれ自体を目的とするものでもない」と『マネジメント』で彼は書いた。「すべては社会的機関であり、社会のために存在する。企業も例外ではない。巨大企業といえども、事業のみで正当化されえない。社会に貢献してはじめて正当なものとされる」。
職業としてマネジメントに関心を持ったのも、機能する社会を手にするには、最も重要な組織としての企業が生き生きと成果を上げ、かつ責任を引き受けなければならないと考えたからだ。『現代の経営』は彼の最も知られる著作の1つである。これはマネジメント全体を論じた初の書物だった。この本がマネジメントという分野に方法的基礎を与えた。ここから、教え、書き、コンサルティングをするというその後のピーターのキャリアが始まった。