ネジをはずす工具「ネジザウルス」の販売本数は、累計で250万丁を超える。1万丁売れればヒットと言われる工具業界で異例のヒットとなった商品はどのように生み出されたのか。
■累計250万丁売れているネジザウルス
「ネジザウルス」は、プライヤーという工具の一種である。他のプライヤーと違うのは、「つかむ」だけでなく「回す」動作にも優れている点。先端部分に施された特殊な加工などによって、物をぐっとつかんで、その状態のまま、左右に回す事ができる。この特徴を活かして、どんなネジでもはずしてしまうのがコンセプトである。ネジの頭の溝が潰れてしまった、ネジがサビてしまったなど、ドライバーではずせないネジをはずす事ができる。
2014年6月「ネジザウルス」シリーズの累計販売数が200万丁を突破した。初代ネジザウルスが発売された2002年から、10年以上にわたって年間16万丁以上のペースで売れ続けた事になる。普通、工具は年間1万丁も売れれば大ヒットとされ、200万丁というのは工具業界では過去に例がない。
■ネジザウルスの誕生
ある時、ガスクッションプライヤーというガス管など円形のパイプをつかむための工具に別の用途があるのではないかと思い付いた。円形パイプをつかんでも滑らないように、先端部分にタテ溝が刻まれていたからである。この特徴を活かせば、つかんだ物をそのまま左右に回す事ができる。これはネジ頭をつかめるのではないかと閃いた。
ドライバーでは手に負えないネジをはずすというニーズは確実に存在する。2000年「小ネジプライヤー」という名前で、価格3600円で販売したが年間で800丁足らずしか売れなかった。ただ期待はずれだったが、強く評価してくれる複数の声が聞こえてきた。売れなかった原因は価格と考えて、2002年に2400円へと値下げした。さらに形状に改良を加えた。それでも期待したほど売れなかった。
そこで、プロ用工具として開発した「小ネジプライヤー」をホームセンターや金物店でも販売してみる事にした。パッケージデザインも変更し、商品名も親しみやすいものに変えようと考えた。パッケージに恐竜のイラストが入り「ネジザウルス」として生まれ変わった新商品は、2002年8月の発売と共に、驚くほどの勢いで売れ始め、初年度は約7万丁売れた。その後も、ネジザウルスは安定して売れ続け、2008年には累計販売数42万丁に達した。
その後、ネジザウルスはニーズが飽和状態ではないかと考えられた。しかし、まだ世帯普及率で考えると1%程度。シリーズ4代目となるネジザウルスGTを開発し、トラスネジもはずす事ができる機能を追加し、はずす事のできるネジの種類を飛躍的に増やして販売した。さらにプロモーションでは「ウルスくん」というキャラクターを制作し、大ヒットした。
著者 髙崎 充弘
1955年生まれ。株式会社エンジニア代表取締役社長 大学卒業後、三井造船に入社。米国レンスラー工科大学に留学し、修士課程卒業。1987年、家業の双葉工具株式会社(現エンジニア)に入社。2004年から現職。 2002年に発売した工具「ネジザウルス」をシリーズ累計250万丁の大ヒット工具に育て上げた。2013年より知的財産教育協会中小企業センターの初代センター長も務める。
帯 タレント 所 ジョージ |
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
日経トップリーダー |
PRESIDENT (プレジデント) 2015年 12/14 号 作家 莫 邦富 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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第1章 一家に一本、ネジザウルス | p.17 | 32分 | |
第2章 ヒット商品はMPDP理論から生まれる | p.73 | 28分 | |
第3章 私がレンスラー博士です | p.121 | 25分 | |
第4章 中小企業は知財戦略で飛躍する | p.165 | 23分 | |
第5章 発明ほどおもしろい仕事はない | p.205 | 17分 |