学生時代
南アフリカは起業家精神溢れる者にとってはチャンスの乏しい国だった。17歳を迎えたマスクはカナダを目指す。親戚を頼ってカナダに渡り、米国に移動する事にした。1989年、マスクはクイーンズ大学に入学。大学では少しでも知らない事があれば徹底的に勉強し、自分の知能を認めてくれる人々を探す場になっていた。1992年、奨学金を得てペンシルバニア大学に編入。そこで経済学を学び、さらに物理学の学位も取った。大学卒業後は、スタンフォード大学院で材料工学と物理学の博士号を取得し、ウルトラキャパシター関係の研究を深めるつもりだったが、わずか2日で中退する。インターネットに秘められた魅力に取り憑かれたからだ。
初めての起業
1995年、マスクは兄弟でZip2というベンチャー企業を立ち上げる。アイデアは単純なものだった。レストランや美容院等を訪問し、インターネット利用者に店の存在を知ってもらうための、検索対応の企業リストを作成し、地図を連動させた。1996年、Zip2はベンチャーキャピタルから300万ドルの投資を取り付けた。この資金調達を機に経営戦略も変更。サービスをウェブ上の道順案内ソフトとして、案内広告を扱っている新聞社にソフト自体を売り込み、業績は大きく伸びた。1999年、同社はPCメーカーのコンパックから3億7000万ドルで買収され、マスクは2200万ドルを手にした。
ペイパル
マスクは27歳にしてIT長者の座を手に入れ、次を考えた。莫大な金が動き、かつ非効率な部分が大量に残っているのはどの業界か。その分野をインターネットで解決しようとした。狙ったのはネット上に本格的な金融機関を作る事だ。Zip2の優秀な技術者を引き抜き、新たなベンチャーに錚々たるメンバーを揃えた。マスクはX.comに1200万ドルを投じ、Zip2で手にしたお金の大部分を注ぎ込んだ。
1999年、X.comは銀行サービスを開始した。斬新だったのは、送金サービスだ。送金先のメールアドレスを入れるだけで送金が完了する。開業からわずか2〜3ヶ月で20万人以上がX.comで口座を開設。2000年、同社はペイパルというサービスを持つライバル会社と合併し、マスクは筆頭株主になった。2002年、同社はイーベイに15億ドルで買収され、マスクは2億5000万ドルを手にした。
ロケット事業
ペイパルを追われて以降、マスクは少年時代に夢中になった宇宙への思いを再び強くした。そして突然「インターネットのサービスなんてやっている場合ではない」と悟った。2002年、スペースX設立。事業開始にあたっては「宇宙分野のサウスウエスト航空」になるというミッションが社員に伝えられた。高品質で低コストのエンジンを開発し、組み立てプロセスを見直す事で、どこよりも速く安くロケットを製造する方針を掲げた。