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2015/08/31更新

人間の分際 (幻冬舎新書)

132分

2P

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「やればできる」は思い上がり

神はいないと言う人が多いけれど、神なしで生きられるなら、それでいい。しかし、神という概念がないと、人間という分際を逸脱する気がする。信仰を持つと、価値判断が一方的にならない。神が存在している事によって、物事をもっと複眼で見る事ができるようになる。

信仰というものは、神と人間との関係、何より「人間の分際」を見極めるものだから、無理が来ないという事である。すべての人には、努力によってその人の可能性の分野を広げる事ができる部分も確かにあるが、その程度は限られている。「為せば成る」などというのはひどい思い上がりである。

しかし限度は少しも惨めな事ではない。その人が何をして生涯を生きるかには、その人が望む部分と、神によって命じられる部分とがある。その接点で生きるのが、一番いい生き方なのだ。

この世の矛盾が考える力を与えている

この世は矛盾だらけだが、その矛盾が人間に考える力を与えてくれている。矛盾がなくて、すべてのものが、計算通りに行ったら、人間は始末の悪いものになったろう。考える事をやめ、功利的になり、信仰も哲学もなくなる。人間が人間らしく崇高である事ができるのは、この世がいい加減なものだからである。正義は行われず、弱肉強食で、誰もが容易に権力や金銭に釣られるから、私達はそれに抵抗して人間であり続ける余地を残されているのである。

人生の本当の意味は苦しみの中にある

ごく普通の人間は、苦しみの中からしか、本当の自分を発見しない。幸福である間はダメなのである。幸福である限り、人間は思い上がり、自信を持ち続け、そのような幸福や自信がいつ崩れるか、と思ってはらはらしている。大抵の人が、自分は「幸福にふさわしい人間」だとさえ思っている。この幸福は努力によって手に入れたもので、自分の心がけが悪くない限り、まず運が狂う事はないと思う。

世の中は決して正当に報いられたりしてはいない。火傷をしなければ普通人間はわからないから、私達は火傷の後に、人生の本当の意味を理解して、強い人間になる。

人に何かを与える事が幸福の秘訣

人間は人からもらう立場にいる限り、決して満足する事もなく、幸福にもなれないというのが現実である。人間は病人であろうが、子供であろうが、老人であろうが、他人に与える立場になった時、初めて充ち足りる。世の中の不幸のほとんどが、「してもらえない」「くれ方が足りない」という物の考え方から生まれる。

幸福の秘訣は、受けて与える事だ。和達は受ける事の方が多いが、何か少しでもできる事を他者に「して差し上げる」生活をする事が私達を幸福にする。