努力でなしうることには限度があり、人間はその身の程を心得ない限り、決して幸福には暮らせない。人が自身を知り、そして幸福に生きるためにはどうすれば良いのかを説くエッセイ。
■人間の分際
私達は望む事について努力もするが、本当の運命を変える力はない。「分際」という言葉がある。人間の努力が加わらない訳ではない。しかし、自分の運命をすべて左右できるという事でもない。それあ、分けるという字と際という字を書いた「分際」という言葉の意味である。
人間の世界には、どんなになそうとしてもなし得ない事がある。その悲しみを知るのが人間の分際であり、賢さだろう。人間の生涯の勝ち負けは単純なものではない。私達が体験する人生は何が勝ちで、何が負けなのか、その時はわからない事だらけだ。数年、数十年が経ってみて、やっとその答えが出るものが多い。
分際とは「身の程」という事だ。財産でも才能でも、自分に与えられた量や質の限度を知りなさいという事なのだ。
ほとんどすべての事に、人には努力でなしうる限度がある。青年は「大志を抱く」のもいいが、「抱かない」のも賢さなのだ。「身の丈に合った暮らし方」をするという事が、実は最大の贅沢で、それを私達は分際というのであり、それを知るにはいささかの才能が要る。分際以上でも以下でも、人間は本当には幸福になれない。分際を心得て暮らせば、それはその人にとって最高の生涯の1つの形である。
著者 曽野 綾子
1931年生まれ。作家 同人誌『ラマンチャ』『新思潮』を経て、山川方夫の紹介で『三田文学』に書いた「遠来の客たち」が芥川賞候補となり23歳で文壇デビュー。 24歳で『新思潮』同人の三浦朱門と結婚。以後、次々に作品を発表。
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
週刊東洋経済 2015年 9/5号[雑誌] |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
まえがき | p.3 | 2分 | |
第一章 人間には「分際」がある | p.19 | 11分 | |
第二章 人生のほんとうの意味は苦しみの中にある | p.45 | 14分 | |
第三章 人間関係の基本はぎくしゃくしたものである | p.77 | 15分 | |
第四章 大事なのは「見捨てない」ということ | p.111 | 14分 | |
第五章 幸せは凡庸の中にある | p.143 | 14分 | |
第六章 一度きりの人生をおもしろく生きる | p.175 | 15分 | |
第七章 老年ほど勇気を必要とする時はない | p.209 | 14分 |