売上がシュリンクしていく百貨店業界にあって、三越伊勢丹はどのように経営を立て直しているのか。三越伊勢丹の社長が取り組んでいる構造改革について語っている一冊。
■同質化して衰退する百貨店
百貨店業界の売上が9兆円から6兆円にまで減ったという事は、今までやってきた事を否定しないと、さらに売上が落ち続けていく事になる。はっきり言えるのは、同質化が最大の問題であるという事である。自ら考えて何か手を打つより、お客様に人気の高い有名ブランドや話題のテナントを入れる事にのみ躍起になった結果、どの百貨店に行っても同じような有名ブランドが入っているという、商品の同質化が起こった。
自らリスクを背負わなかったために、商品の価値が他の業態と同じになってしまった。結果的に、価値と価格のバランスにおいて、ユニクロや無印良品、GAP、ZARAなどの製造型小売業(SPA)に勝てなくなった。その結果、業績が悪化し、販売員を店頭から減らしたためにサービスが低下していった。
衰退からの脱出は、まずは同質化からの脱却と、リスク回避体質を改める事から始めなければならない。それに対する三越伊勢丹の答えが「仕入構造改革」である。
■百貨店の役割
これからの百貨店ならではの役割はどこに求めればいいのか。百貨店は小売業界全体の4.4%しかシェアがない業態のため、他業態と重なり合っては意味がない。異なる役割を担っていかなければ、存在価値はない。そうなると、百貨店の本来の姿に戻るという事になる。
百貨店の役割は、暮らしを豊かにする「モノ」「コト」を提供する事である。「モノ」とは、独自性の高い価値のあるものである。その価値とは、お客様から見れば価格とのバランスである。一般的に、買い物をする時、お客様がイメージされている価格帯というのが必ずある。その価格帯を中心に、それよりも少しいいモノを品揃えしていく事が、最も重要になってくる。
「コト」とは何か。高度成長と共に所得水準が上がるにつれ、日本人は生活必需品以外のものを買い求めるようになった。それでも、当時の百貨店は高嶺の花だった。百貨店に遊びに行く事が1つのレジャーとして成立するほどで、日曜日に家族でおめかしして買い物に行く日は、ワクワクする思いで出かけた。この感覚をもう一度取り戻す。つまり環境と空間を意識した店づくりをしなければならない。お店に入った瞬間に「ワクワク感」を感じるような店づくりである。これは百貨店の中に建築的なデザインを取り入れていくという事である。
百貨店として提供する「コト」のもう1つは「おもてなし」である。三越伊勢丹のスタイリスト達がお客様にどれだけのご満足と感動を提供できるか、という点がポイントである。つまり接客の質、販売の質を、他の業態と棲み分けていく必要がある。
著者 大西 洋
1955年生まれ。三越伊勢丹ホールディングス代表取締役社長 大学卒業後、伊勢丹に入社。紳士服の販売員からキャリアをスタートし、プロジェクト開発・店舗開発担当となり、この間、海外勤務も経験。2003年には、新宿本店のメンズ館リモデル・オープンを成功させる。その後、執行役員などを経て、2009年、伊勢丹常務執行役員と三越取締役常務執行役員を兼任。同年、社長就任。2012年より現職。
週刊ダイヤモンド 2015年 6/20 号 [雑誌] 八重洲ブックセンター八重洲本店 販売課リーダー 鈴木 寛之 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.3 | 9分 | |
第1章 社員のモチベーションを高める | p.27 | 17分 | |
第2章 リーダーシップを発揮させる | p.57 | 20分 | |
第3章 大切なことは現場が教えてくれた | p.93 | 20分 | |
第4章 証言・社員は現場で何を感じているか | p.130 | 17分 | |
第5章 現場と二人三脚で進める成長戦略 | p.161 | 21分 | |
第6章 「世界一の百貨店」のつくり方 | p.199 | 13分 | |
おわりに | p.223 | 2分 |