自然選択によって進化が起こる
過去数百年、あるいは数十年で、生きる環境が劇的に変わったのはヒトだけではない。コオロギは、羽の突然変異によってオスが鳴かなくなった。その完全に新しい性質は、ほんの5年(20世代未満)で広がった事がわかった。この10年で、急速な進化への理解は一気に進んだ。例えば、魚類にも大きさと生殖の間にトレードオフがある。大きくなるまで待つと産める子の数が増え、進化上有利になる。しかし子を産む前に死んでしまうリスクは高くなる。乱獲によって魚の数が大幅に減った漁場では、平均的に魚は小さくなっている。大きな魚がすべて捕獲された訳ではなく、魚が以前より小さくなったのだ。
ある個体群における遺伝子頻度の変化で、最も新しい変化が起きているのはウイルスやバクテリアのような生物だ。世代交替が速く進むため、ウイルスはすぐに進化する。それらの遺伝子頻度は、ヒトやキリンなどの脊椎動物に比べ、ごく短い時間で変化が起きる。
進化の性質からして、進化が速く進むのは必ずしもいい事ではない。ヒト以外の生物で、進化が速く進む背後には、大抵新しく強力な選択要因がある。例えば、穀物に新しい殺虫剤が噴霧されたと、新しい病気が持ち込まれたとかいった事だ。耐性を持つ個体は生き残って子孫を増やし、そうでないものは死ぬ。問題はそこで殺虫剤や病気に対して感受性の高い遺伝子と共に、他の遺伝的変異の多くが追い出されてしまう事だ。進化は常に起こっていて、あちこちの遺伝子と、それに伴う性質を変化させている。
人間に関しては、自然選択は完全に停止している訳ではないが、かなり遠回りしているように見える。一方で、AIDSのような新しい病気によって、私達のゲノムで新たな選択が起こり、たまたまそのウイルスに耐性を持つものが有利になり、そうでないものは消えていく。
私達は今も進化している
人類学者の多くは、私達は今でも大なり小なり進化していると考えている。青い目が出現したのはせいぜい6000〜10000年前で、染色体のランダムな変化によって生じたと考えられている。
進化が起こるには突然変異が必要だ。有益な性質が生じるかどうかは、新しい遺伝子あるいは遺伝子の組合せにかかっている。このような突然変異は、人口が多い世界ではより速く広がる。そのため人口が多いと、進化も速くなる。
遺伝子の変更は突然変異が素材をもたらし、自然選択やその他の力がその素材に働きかけた時に起こる。しかし変化は少しずつ、しかも思い出したように起こり、残りのゲノムもでたらめに引きずられる。自然選択は、今でも働いている。人間は進化の終着点ではないし、最も新しい生物でもない。