人間と機械の区別が存在しなくなる
特異点に到達すれば、我々の生物的な身体と脳が抱える限界を超える事が可能になる。好きなだけ長く生きる事ができるだろう。人間の思考の仕組みを完璧に理解し、思考の及ぶ範囲を大幅に拡大する事もできる。21世紀末までには、人間の知能の内の非生物的な部分は、テクノロジーの支援を受けない知能よりも、数兆倍の数兆倍も強力になる。
我々は今、こうした移行期の初期の段階にある。今世紀の半ばまでには、テクノロジーの成長率は急速に上昇し、ほとんど垂直の線に達するまでになるだろう。特異点以後の世界では、人間と機械、物理的な現実とヴァーチャル・リアリティとの間には、区別が存在しなくなる。
収穫加速の法則
人は大抵、今の進捗率がそのまま未来まで続くと直感的に思い込む。なぜなら、指数関数曲線は、ほんの短い期間だけをとってみれば、まるで直線のように見えるからだ。しかし、テクノロジーの歴史を研究すれば、テクノロジーの変化は指数関数的なものだという事が明らかになる。
テクノロジーの加速度的な発展は、「収穫加速の法則」と呼ぶものの影響であり、避けられない結果である。この法則は、進化のプロセスにおける産物が、加速度的なペースで生み出され、指数関数的に成長している事を表す。進化は正のフィードバックを働かせる。進化のある段階で得られたより強力な手法が、次の段階を生み出すために利用される。特異点が到来する頃には、人間とテクノロジーとの区別がなくなっている。人間が、今日機械と見なされているようなものになるからではなく、むしろ、機械の方が人間のように、さらには人間を超えて進歩するからだ。
収穫加速の法則は、電子工学、DNA解読、通信、脳のリバースエンジニアリング、ナノテクノロジーなど、全てのテクノロジー、どのような進化のプロセスにも当てはまる。来るべきGNR(遺伝学、ナノテクノロジー、ロボット工学)の時代の要因となるものは、コンピューティングの指数関数的な爆発だけでなく、多数のテクノロジーの前進が絡み合い、相互作用や無数のシナジーが生まれる事の方が大きい。
21世紀前半は、遺伝学(G)、ナノテクノロジー(N)、ロボット工学(R)の3つの革命が同時に起きた時代であったと、いずれ語られる事になるだろう。これらの革命は特異点の黎明を告げるものである。
特異点は2045年に到来する
特異点(人間の能力が根底から覆り変容する時)は、2045年に到来する。非生物的な知能が2040年代半ばには明らかに優勢を占めるにしても、我々の文明は、人間の文明であり続ける。2020年代には、コンピューティングのほとんどは、壁、家具、衣類、体や脳の中など、あらゆる環境を通して広く配信される事になる。