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2015/03/26更新

いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学

356分

9P

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集中とトンネリング

欠乏が心を占拠すると、人は持てるものを一番効果的に使う事に注意を集中する。ひとたび時間が足りないと気付くと、人は集中する。締切が有効なのは、欠乏を作り出し、注意を集中させるからだ。仕事でも楽しみでも、時間があまりない時の方が得るものが大きいのだ。これを「集中ボーナス」と呼ぶ。欠乏による心の占拠が生むプラスの成果だ。

欠乏のボーナスが生じるのは、人の注意を他のすべての事から奪って引きつけるからだ。これは意識によるコントロールの及ばないところ、ミリ秒単位で起こる事がわかっている。だからこそ、締切が差し迫っている時、人は気晴らしや誘惑をすんなりかわせる。

しかし、欠乏によって得られる集中ボーナスには代償が伴う。1つの事に集中するという事は、他の事をほったらかすという事だ。集中する力は物事をシャットアウトする力でもある。欠乏は「集中」を生む代わりに「トンネリング(視野狭窄)」を引き起こす。つまり、目先の欠乏に対処する事だけに、ひたすら集中し、もっと重要かもしれない事がトンネルの外に押し出されて、ほったらかしになる。

トンネリングの作用は何が頭に浮かぶかを変える事だ。1つの事に集中すると、競合する概念が抑制される。他の関心事についてあまり考えられなくなる。これを「目標抑制」と呼ぶ。抑制は欠乏の集中ボーナスとコストの両方を生み出す。

人は費用対効果を検討してトンネリングするかどうかを決めるわけではない。欠乏は人の心を無意識の内に占拠する。多忙な人はトンネリングを起こしている可能性がある。切迫する欠乏は大きくのしかかってくるので、それに関係のない大切な事が無視される。欠乏を何度も経験すると、看過される物事が積み重なる。これを関心がないと勘違いしてはならない。結局、本人は後悔するのだ。

処理能力への負荷

欠乏への集中は無意識であり、人の注意を引きつけるので、他の事に集中する能力を邪魔する。欠乏のせいで心ここにあらずの状態が続く。生活の1つの分野における欠乏は、他の分野に回る注意や意識が減る事を意味する。欠乏は常に人をトンネルへと引き込む事によって、その処理能力に負担をかけ、その結果、人のごく基本的な能力を抑制するのだ。そして、処理能力に負荷がかけられると、流動性知能を低下させるだけでなく、自制心を弱める可能性もある。

処理能力に負荷がかかると、人は間違いを犯しやすくなる。多忙な人はさらに大きな計画錯誤を犯しやすい。スラック(余裕のあるスペース)がほとんどなければ、失敗する余地がほとんどない。欠乏は誤りの代償を大きくするだけでなく、誤った選択をする場面を増やすのだ。

スラックの概念は欠乏の核心に迫るものである。スラックがあると豊かさを感じられる。