人は、なぜ孤独を怖れるのか。作家の森博嗣氏が、孤独について考えられる事こそが、動物と違う人間の価値であると説き、孤独の価値について語っています。
■孤独とは何か
孤独は寂しいものだ、という認識は一般的なものと言っても良い。人によって、どんな状態を孤独と表現するのか、これにはかなり違いがある。ある人は、友達がいない事だと言うし、またある人は、仲間と一緒の時に孤独を感じると言う。つまり、人が孤独を感じる時というのは、他者を必ず意識している。
そして、孤独や寂しさを感じるのは、ただ仲間がいないという状況からだけでなく、それ以前に仲間の温もりや友達と交わる楽しさといったものを知覚している事が前提条件となっている。つまり、孤独が表れるのは、孤独ではない状態からの陥落なのである。
寂しいという感情は「失った」という無念さの事だ。また、その失ったものが「親しさ」であれば、それが即ち「孤独」になる。失う事が寂しいというルーツは生存の危機だろう。ただ自分のもの、時間などが失われた時の喪失感が、寂しさや悲しさの主原因となる。
孤独は人間にとって実に大切で、価値のある状態だ。これは数ある欲求に直結する本能的なもの、動物的なものではなく、人間にだけある高尚な感覚と言える。孤独を知らなくても、もちろん生きていける。でも、それは動物的に生きているだけで、人間として生きている事にはならない。それくらい、人間だけの特権といえる。
現代人は、あまりにも他者とつながりたがっている。そして現代人は「絆の肥満」になっている。つながりすぎの肥満が、身動きのできない思考や行動の原因になっている事に気づくべきである。時々、孤独になった方が健康的だし、思考や行動も軽やかになる。楽しさに飢えた状態が「孤独」なのだから、そこから「楽しさ」を求める生産的で上向きな力が湧き上がってくるのも、自然の摂理なのである。
著者 森博嗣
1957年生まれ。小説家、推理作家、工学博士。 国立大学の助教授として「粘塑性流体の数値解析手法」の研究を続ける傍ら、小説を執筆。1996年、『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞。 大学や研究所等が舞台となることが多く、作風も相まって理系ミステリィと評され、話題を呼んだ。広義の推理小説と呼ばれるジャンルを中心として執筆していたが、近年は、恋愛小説、絵本、詩集といった他分野にも進出している。
週刊 東洋経済 2015年 1/3号「2015年大予測/ロシア ルーブル暴落ショック」 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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まえがき | p.3 | 4分 | |
第1章 何故孤独は寂しいのか | p.19 | 17分 | |
第2章 何故寂しいといけないのか | p.53 | 20分 | |
第3章 人間には孤独が必要である | p.93 | 19分 | |
第4章 孤独から生まれる美意識 | p.131 | 10分 | |
第5章 孤独を受け入れる方法 | p.151 | 10分 | |
あとがき | p.172 | 5分 |