美しく、目的に適うこと
歴史的にも証明されているが、美しさと実用性が両立していないと、そしてコンセプトが制作物に反映されていないと、美的価値は生まれない。同様に、美学を全く考慮しなかったり、芸術家が作品に全面的責任を負わなかったり、一人でやるべき事を細かく分担したり、複数のお偉方の意見だけで制作したり、創造の工程をきちんと踏まなかったりすると、将来的には、作品の価値だけでなく、制作者の価値も下げてしまう。
美しさと実用性は、互いの存在によって生まれる関係が理想だ。過去においてはただ美しいだけの物はほとんどなかった。シャルトル大聖堂の壮麗なステンドグラスはパルテノン宮殿やクフ王のピラミッドと同様に、きちんと役目を果たしている。すばらしいゴシック様式の大聖堂の外装は人々を中へと誘い、内部のバラ窓は神聖な雰囲気を醸し出すのだ。
デザイナーの命題
デザイナーは通常、先入観を持って作業に取りかかる事はない。むしろ、緻密な調査と観察の結果アイディアが生まれ、そのアイディアを元にデザインをする。そのため、デザイナーが自分に課された命題に対する適切な答えを見つけるには、どうしてもある種の思考プロセスを経なければならない。
意識してか否かはともかく、デザイナーは分析し、解釈して、考案する。デザイン業界、その関連業界における科学的・技術的進歩を常に意識していなければならない。即興で、工夫して、あるいは発見により、新しい技法や組み合わせを生み出す。
デザイナーが扱う要素は大きく3つに分類できる。
①与えられる物・条件
(製品、宣伝文句、商品コンセプト、ロゴマーク、体裁、媒体、制作行程など)
②作品の見た目に関わること
(スペース、コントラスト、バランス、調和、調子、繰り返し、シルエット、まとまり、形、色、重さ、分量、価値、質感など)
③心理的な要素
(美意識や錯覚についての問題、デザイナーの責任感、見る者の直感や感情)
与えられた素材が適当でなかったり、曖昧だったり、面白みがなかったり、さもなければ視覚的メッセージを発信するのにふさわしくなかったりする事もしばしばあるので、デザイナーは命題を考え直したり、別の表現方法を模索したりしなくてはならない。具体的には、与えられた素材のほとんどを切り捨てる、あるいは変更するといった作業だ。デザイナーは分析する(入り組んだ素材を、どのように、なぜ、いつ、どこといった単純な構成要素にまで分解する)事から、命題に対する答えを探し始める。