トレンドマイクロの躍進
当時、唯一の競合相手はマカフィーであったが、テクノロジーの面では両社は全く違う道を歩んだ。マカフィーはウイルスを収集してウイルス・パターンをスキャンするパターン・マッチング方式に専念し、ウイルスの命名権を取得するのに躍起となった。一旦、ウイルスが大量発生すると大いに宣伝を打ち、ユーザーに恐怖心を植え付けた。一方、トレンドマイクロは、ウイルスに共通する行動モデルを分析し、ウイルス被害を未然に防ぐルールベース方式の研究開発に努めた。ウイルスが大流行した時も控えめな態度に終始し、速やかにワクチン・プログラムを作って無料で提供した。両社は創業当初から、全く異なった企業文化を示していた。
この産業は拡大と沸騰の一途を辿った。すぐにシマンテックがノートンを買収し、戦場に参加してきた。さらに全世界で大小500社余りのウイルス対策会社が出現し、競争は白熱化した。トレンドマイクロはやはり技術力の高さで勝負した。OSの進化と共に常に他に先んじて新たなウイルス対策ソフトを開発した。数多くの専門メディアが業界をリードする起業であると評した。というのも、トレンドマイクロは常に大手企業と戦略的提携を結んでいたからである。その中にはインテルも含まれ、5年間の提携契約を結び、インテルがアジア以外の世界全域で販売を担当し、トレンドマイクロはアジア地域で販売を担当した。インテルからの潤沢はロイヤリティは、グローバル展開するための基礎を固め、業界での知名度も一気に上がった。業績は速やかに成長した。その頃には、全世界で500社余りを数えたウイルス対策ベンダーも、生き残って真にグローバル企業と言えるのは3社になっていた。創業して10年、社員は500人に迫り、海外拠点は全世界で30を数えるまでに至った。1998年、トレンドマイクロは日本の店頭市場で株式公開した。
トレンドマイクロのコア・コンピタンス
2000年、ネットバブルが崩壊し、その影響は避けられなかった。株価は暴落し、顧客は撤退した。スティーブは「我々が自分のコア・コンピタンスをしっかりと理解して実力を高めれば、必ずこの嵐を乗り切れる事ができるし、次の大いなる成長を迎える事ができるだろう」と告げた。この時点で最も肝要なのは人心の安定であると知っていた。そして、トレンドマイクロの真のコア・コンピタンスとは何かを真剣に探究し、以下の結論となった。
①ウイルスに対する先進的なテクノロジーと知識
②ネットワーク・ゲートウェイのテクノロジーとシェア
③テクノロジーのイノベーションと製品化のバランス
④グローバル・サービスネットワークの健全さと名声
⑤最優良血統による戦略的提携
危機に直面して唯一とるべき道は変化の他にない。組織であれ戦略であれ、製品であれサービスであれ、みんな変化が必要だ。