認知神経科学の父とも言われる世界的な神経科学者が、脳と意識の関係を解き明かす一冊。人の意識はどこから生まれるのか、脳の仕組みを解説しながら、人間の自由意志とは何かを考えさせる内容になっています。
■精神はどこから生まれるのか
私達は、自分が一つのまとまった意識体として主体的に行動しており、ほぼすべての事を自由に選択できると感じている。しかし同時に、私達は装置でもあり、宇宙を支配する物理法則の対象になる。
精神を成立させているのは脳の生理学的な作用であり、それゆえ精神も他のものと同様宇宙の物理法則に支配されている。知的コミュニティの中では、この宇宙ではすべてが決定されているという考えが優勢だ。精神の成立が物質から意識への作用、即ち上向きの因果関係である以上、すべては決定済みだという考えが主流だ。
しかし、現代の神経科学が決定論に関して全面的な原理主義を貫いている訳でもない。精神は、詳細はどうあれ脳の物理的なプロセスで出現するが、同時にその精神は脳に制限を加えている。精神と脳はどう関係づけるべきか。
現在の神経科学では、意識は総合的な単一のプロセスではないというのが定説だ。意識には幅広く分散した専門的なシステムと、分裂したプロセスが関わっており、そこから生成されたものをインタープリター・モジュールが大胆に統合している。意識は創発特性なのである。様々なモジュールやシステムが注意を惹こうと競い合っていて、勝者が神経系として浮上し、その瞬間の意識的経験の土台となる。たえず入ってくる外からの情報に脳が反応して、行動の展開を計算し、実行に移す間に、意識的経験も組み立てられていく。
私達が意識するのは経験という1つのまとまりであって、各モジュールの騒がしいおしゃべりではない。意識は筋の通った一本の流れとして、この瞬間から次の瞬間へと自然に流れている。この心理的統一性は「インタープリター」と呼ばれるシステムから生じる経験だ。インタープリターは、私達の知覚と記憶と行動、それらの関係について説明を考え出している。それが個人の語りにつながり、意識的経験が持つ異なる相が整合性のあるまとまりへと統合されていく。混沌から秩序が生まれるのだ。インタープリター・モジュールはヒトの脳の左半球だけに存在すると考えられ、仮説を立てようとするその衝動が、人間の様々な信念を生じさせる原動力となっている。このシステムが自分が「自分」であるという感覚を与えてくれる。
著者 マイケル・S. ガザニガ
1939年生まれ。カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授 (心理学) カリフォルニア大学SAGE精神研究センター所長 米国認知神経科学研究所の所長を務め、認知神経科学の父とも言われる世界的権威。2001年から大統領生命倫理評議会のメンバーを9年間務める。米国芸術科学アカデミー会員。
日本経済新聞 東京大学教授 池谷 裕二 |
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.9 | 5分 | |
第1章 私たちのありよう | p.17 | 31分 | |
第2章 脳は並列分散処理 | p.59 | 27分 | |
第3章 インタープリター・モジュール | p.95 | 27分 | |
第4章 自由意志という概念を捨てる | p.131 | 36分 | |
第5章 ソーシャルマインド | p.179 | 34分 | |
第6章 私たちが法律だ | p.225 | 34分 | |
第7章 あとがきにかえて | p.271 | 4分 |
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