アイドルの歴史を紹介しながら、アイドルが流行する仕組みを解説している一冊。
■アイドルとは
アイドルの定義は①若い、②歌手で、③メディアミックス的に活動し、④美貌や声や演技力に恵まれない非実力派である。映画時代の「スター」とテレビ発の「アイドル」とを隔てるものは「非実力派である」という1点に集約される。「スター」の時代、多くは人並み外れて美しいルックスで一般人とは隔絶した距離感を持っていたり、歌唱力や演技力など強い「実力」を持っていたりする事がスターの条件だった。
1970年代には「アイドル」という「劣っている者」がそれ以前の「実力派スター」という「優れている者」を市場から駆逐した事になる。アイドルの形態的特徴には「かわいい」という言葉が挙げられる。そこには「美しい」と対比して不完全なものがあり、「アンバランス」「小さい」「幼い」といった意味的特徴がある。「かわいい」には人をして触れたい、庇護してあげたいという欲求を引き起こす。
立派すぎるスターはヘタレにはまぶしすぎて見ていられないという感覚に転化する。少し欠点があって、自分が支えなくちゃと思わせるような女の子、つまりアイドルは「かわいい」ものでなくてはならなかった。
■アイドルと景気
アイドルと日本経済の間には景気循環を基礎とした相関関係があると言われる。時代を画するアイドルは景気後退期に生まれ、景気上昇と共に人気を獲得し、景気が頭を打った1〜2年後に人気が凋落するというものである。
戦後日本経済の歴史を見る時、大きく分けて、戦後経済の混乱期(1945〜55年)、高度経済成長期(55〜70年)、戦後経済成熟期(70〜85年)、バブル経済期(85〜90年)を経て、現在に繋がる。アイドルについては、歌手という形で60年代から70年代初頭にかけて生まれ、80年代に1つのピークを迎え、90年代のいわゆる「アイドル冬の時代」で断絶し、また97年のモーニング娘。以降、再び勃興してきたという見方が一般的である。これを日本経済の大きな区分に重ねると、「アイドルの時代」とは、戦後経済成熟期と現代という「行き詰まった時代」に重なるという傾向が見られる。
■現代アイドルがグローバル市場経済の中で生きるヘタレを支える
日本の中産階級は、長い変遷の中で、戦後の歴史的幸運の中で陥った「ヘタレ」状態を脱して、経済学的には常態である「マッチョ」に戻った訳だが、そこで「ヘタレ」的要素をしっかりと保持する事に成功した。
そして、市場経済体制が持っている過度なマッチョ状態への振れやすい力学に反して、「ヘタレ」であり続けようとするこの国の中で生まれたものが、逆説的にグローバル市場経済を補完し、横から支える可能性がある。
著者 境 真良
1968年生まれ。国際大学GLOCOM 客員研究員 経済産業省 国際戦略情報分析官 学生時代よりゲームデザイナー、ライターとして活動し、1993年に東京大学を卒業、通商産業省に入省。 経済産業省メディアコンテンツ課の起ち上げに課長補佐として参画。その後、東京国際映画祭事務局長、早稲田大学大学院客員准教授、ドワンゴ等を経て、現職。 専門分野はIT、コンテンツ、アイドル等に関する産業と制度。
帯 作家 東 浩紀 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.3 | 5分 | |
第一章 アイドルのメディア産業論 | p.15 | 27分 | |
第二章 アイドルの消費論 | p.65 | 21分 | |
第三章 アイドルの進化論 | p.103 | 31分 | |
第四章 アイドルの国家論 | p.159 | 26分 | |
第五章 アイドルの世界平和論 | p.207 | 23分 | |
おわりに | p.249 | 3分 |