京都の老舗料亭の主人が、料理とは何か、サービスとは何か、飲食店を経営するにあたっての心得を語った一冊。
■飯屋のおっさん精神を忘れるな
「儲」という字は「信者」と書く。つまり「儲ける」という事は「信者を作る」ということ。「ああ、おいしかった。これで1000円は安いなあ」とお客さんが得した気分になれば、お客さんは儲かったと思い、その店の「信者」になる。逆にお客さんの側に立たないで、売る側の論理でメニューを決め、「この値段で食べろ」と言っても、お客さんは納得しない。お客さんが店の信者になれば、何回も店に足を運び、その結果、お店は「儲かる」のである。
お客さんと店の儲かる比率は、6対4か、7対3にしておかないと難しい。3店舗くらいまで店を増やすと、組織を優先しがちになる。1店の時は個人店主の気持ちだったのが、5店くらいになると「自分は経営者だ」と、意識が変わってしまう。そうなると、本来、お客さんに喜んでもらうために商売の組織を作ったのに、組織を維持するために商売をするようになる。これは本末転倒である。飯屋のおっさん精神を忘れてはいけない。
■「No」と言わないのが真のサービス
良いサービスとは、突き詰めて考えるとお客さんに対して「No」と言わない事である。菊乃井では、お客さんの言う事には何事であってもまず「No」と言うのはダメだと教育している。「できない」「だめです」と言っていたら発展性がない。逆に「こうしたら、できるのと違うか」と常に考える方が、何事も良くなる。そういう発想をする事で、新しいモノやサービスが生まれてくる。
■考える事が「料理」の本質
「料理人としてずっと続けてきた事は?」と聞かれたら、その1つとして「本を読む事です」と答える。読む本は料理本に限らない。歴史、民俗学、第1次産業に関する本なども読む。なぜなら、考える事につながるからである。
料理人で一流と呼ばれるにはそれなりの技術が要る。しかし、技術は本質ではない。考える事が本質なのである。考えた事を実現するために技術が必要になるだけ。そのための読書なのである。
料理というのは「理を計り定める」、すなわち「考える」という事なのである。食材を切ったり煮たりするのが「調理」。調理の基を考えるのが「料理」である。だから「料理」と「調理」には天地の差がある。
お客さんを見て、食材を見て「料理」を考えるのである。その人が15歳だとして、その若さで一番喜んでくれるには何が最善かと考える。食材がアイナメだったら、それを甘辛に唐揚げにして卵とじにしたらボリュームがあって喜ぶのではないか、そう考えて薦める事ができるのが料理人である。
著者 村田吉弘
1951年生まれ。和食料亭「菊乃井」三代目主人 京都・祇園の老舗料亭「菊乃井」二代目の長男として生まれる。大学在学中、フランス料理修行のため渡仏。大学卒業後、名古屋の料亭「加茂免」で修行を積む。1976年実家に戻り、「菊乃井木屋町店」を開店。1993年菊の井代表取締役に就任。 2012年「現代の名工」「京都府産業功労者」、13年「京都府文化功労賞」を受賞。現在、NPO法人日本料理アカデミー理事長。
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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第1章 「儲ける」とは「信者を作る」こと | p.11 | 13分 | |
第2章 世界を目指す和食のあるべき姿 | p.43 | 10分 | |
第3章 若手料理人に送るエール | p.69 | 14分 | |
第4章 ピンチをチャンスに変える思考 | p.105 | 12分 | |
第5章 経営者、そして料理人の矜持とは | p.135 | 11分 | |
第6章 料理人はどんな状況でも情熱と勇気を失わない | p.163 | 14分 |
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料理というのは「理を計り定める」、すなわち「考える」という事なのである。食材を切ったり煮たりするのが「調理」。調理の基を考えるのが「料理」である。だから「料理」と「調理」には天地の差がある。
2014-07-02
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