ヘッジホントがやって来た
次の日、ナイーゾは、息子のエンゾーから、サッカーチームに入りたいとねだられた。しかし、お金がないため、そんな余裕はない。「神様、ぼくにお金を下さい。エンゾーにサッカーをやらせてあげたいのです」
ナイーゾの家にトルーゾから1通のハガキが届いた。このハガキがナイーゾ一家だけでなく、カネー村のゾウたちの暮らしを一変させることになる。
「投資の話なんだけど、よかったら、説明を聞きに来ないか?」
説明会では、トルーゾが世界的な天才物理学者、ナニシタイン教授が開発した投資商品『ヘッジホント』を紹介した。ヘッジホントにお金を出すと、1年でお金が2倍になる。
ナイーゾは、知らないうちに興奮していた。ヘッジホントさえあれば、自分は世界一のパパになれる。ヘッジホントは、ゴールドラッシュだった。ローンで家を建替えるゾウ、新車を買うゾウ、海外旅行に出かけるゾウが増えた。毎週送られてくるのは配当の計算書だけで、まだ一度もお金は振込まれていない。なのに、みんなお金が入ってきたつもりになって、贅沢をし始めた。
アルーゾのお金の授業
炭坑夫から身を起こし、カネー村のみならず、国中に事業を展開したアルーゾは、稼ぐのも上手だったが、惜しみなくその財産を分かち合うのでも有名だった。アルーゾは長年、村の子供たちを集めて、お金の授業を続けていた。「たくさん喜ばせたゾウがお金持ちになる」「与えた分だけしか、受け取れない」
ある日、生徒の1人だったエンゾーはアルーゾに相談した。「ヘッジホントって大丈夫なの?」 いつもは優しいアルーゾの顔から笑いが消えた。それからアルーゾはヘッジホントのことを調べ始めた。
終わりの始まり
朝早くオフィスにかかってきた警察からの電話で、トルーゾは天国から地獄に突き落とされた。ナニシタイン教授が失踪したというのだ。途中からねずみ講のようにお金をかき集めて、自転車操業をしていたが、やがてパンクし、約束の配当が払えなくなったというのだ。
ナニシタイン教授が捕まったというニュースが流れると、たくさんのゾウが銀行の窓口に押し寄せパニックになった。その頃、トルーゾはとっくに姿を消していた。カネー村の混乱はすさまじかった。
その混乱をよそに、ナイーゾの店では、なぜかパン屋に来るお客さんが増えた。ゾウたちはナイーゾの顔を見ると安心して、パンを買って帰っていった。ナイーゾはこれまでになく、パン屋の仕事に精を出した。自分には仕事がある。誰かに喜ばれ、お金がもらえる。
その後、トルーゾが捕まった。しばらくして、村のゾウたちは平常心を取り戻した。お金に踊らされるのではなく、自分の本当にやりたいことに意識を向け始めた。