再び脚光を浴びている日本の生産方式
海外では、トヨタ方式のような「流れ重視」の生産思想を「リーン生産方式」と呼び、今や世界中の多くの国にリーン経営協会がある。海外では90年代の初め以来、20年ぶりぐらいにリーン生産方式の学習熱が再び高まっている。その背景には、新興国と先進国の賃金格差が縮小しているという流れがある。
例えば、かつて日本の1/20と言われた中国の工場賃金が、平均すれば数分の1になっている。製造原価の式を見ても分かるように、国際的な賃金差が縮まれば、生産性の向上でコスト差を引っくり返せるチャンスが大きくなる。そのため、生産性向上を得意とする日本の生産システムが再び脚光を浴びている。
良い現場を残せ
日本は短期の為替の問題ではなく、長期的視野で、世界のどこでどんなものづくりをやるのか考えなければならない。例えば、2012年、タイの最低賃金は政府の方針もあって40%上がった。生産性を上げて賃金高騰を打ち消す事ができない工場は、輸出拠点としては難しくなる。インドネシア、ベトナム、インドの一部など、日本が海外生産拠点として重視していたところは軒並み賃金が高騰している。つまり、海外に工場を出した瞬間から、直ちにそこの生産性向上を始める覚悟が必要である。
中国も同じで、国内現場が生産性で頑張ればコストで中国拠点に勝てるかもしれないぐらい、日中の賃金格差が縮まってきている。これまで10年ほど、中国の賃金水準は日本のほぼ1/20のままだった。これに対して日本国内の貿易財の工場は、中国と比べれば生産性は相当に高い。2、3倍、あるいはそれ以上のところがかなりある。日本では円高が始まって以来40年間、低成長や円高といったハンデを跳ね返そうと、ひたすら能力構築を続け、生産性を上げてきた。そして中小企業も含め、多くはしぶとく生き残った。
日本の優良現場にとって、最もハンデの厳しい最悪の時期は終わりつつある。その理由は2つ。
①新興国と先進国の賃金差が縮小しつつあること
②日本の国内工場の多くが、まだ生産性を上げる伸びしろを残していること
しかも「良い現場」は逆境と戦ってきた結果、ハンデ抜きの地力、つまり生産性やリードタイムや製造品質といった「裏の競争力」では、以前より強くなっている。
但し、この話は日本に良い現場がしっかり残っていく事が大前提となる。そこで改めて心配されるのは、日本企業が長期的な視野に立って、グローバル全体最適経営の観点から、良い現場をしっかりと国内に残してくれるかどうかである。
21世紀初頭の今、日本人が日本の現場や産業に対して持つべき意識とは、「やらねば負けて消える」という危機意識と「やれば残れる」という希望である。