直感と思考
棋士がイベントなどでたくさんのアマチュアを相手に同時対局を行う事があるが、棋士はそういう時にはほとんど手を読まずに、直感的に指していく。それでも局面の難易度が高くならない限り、間違える事はほとんどない。
だが、相手がプロ棋士の場合、直感のみに頼る事は危険を伴う。そこで行うのは、直感で浮かんだ評価をいったん保留し、他の選択肢を1つ1つ検証していくという作業だ。仮にA、B、Cという3つの選択肢があるとして、Aがベストだという直感があったとしても、B、Cを選んだ時の事をじっくり考え、それらの可能性を消去してからでないとAを選ぶ事をしない。
このような思考は無駄になる時間も多くなるため、考えすぎで疲れてしまう事もある。しかし、局面を観察して分析し、最善手を求めて考え続ける根気が人と比べてあるからこそ、良い成績を収める事ができた。
いかにミスをしないかの勝負
将棋に「逆転の妙手」は存在しない。プロ棋士の対局で驚くような逆転が生まれるのは、相手が致命的なミスをした時だけだ。一手の好手のみで勝負がひっくり返るような事はまずありえない。
逆に、それまでの良い流れをすべて壊してしまうような「逆転を許す悪手」はある。プロの世界において勝負を分けるのは常に紙一重の差だ。要するに、将棋とはいかにミスをしないか、少なくするかという戦いなのだ。夢のような一発逆転はないが、逆はありうる。だからこそ焦らず、ミスをしないように、一手ずつ丁寧に進めていかなければならない。
ではミスをしないためにはどうすればいいのか。ミスをしないという事はまず不可能だが、少なくする事ができる。ミスを一度で止める事を意識すればいいのだ。将棋ではミスをした後、続けてミスが起こりやすい精神状態に陥る。そこで大切なのは、冷静になって丁寧に考え直す事だ。そして、一回目のミスを許容する余裕だ。
敗戦は勝利のための必要経費
将棋に絶対はない。プロの世界において勝率が8割を超える事はめったいにないので、どんなに強い棋士でも2〜3割は負ける事になる。その前提で行うゲームだからこそ、負け方が重要になる。負けをいかに有効に活用し、そこから何を学ぶかを考えるべきだろう。成長につながる1つの負けが、後の2勝、3勝をもたらしてくれる。
将棋を始めた頃は、負けるのが本当に悔しかった。しかし、奨励会で将棋について知れば知るほど「負けて悔しい」が「なぜ負けたのか?」に変わっていった。負ける事もあるからこそ、その負けをしっかり検証し、同じ過ちを繰り返さない事が重要なのだ。