同期である羽生義治という偉大な棋士に追いつけず、苦悩の中で研鑽を続けた森内俊之氏。ついには永世名人の称号を得て、トップ棋士の1人となった森内氏の勝負哲学が語られている本です。負けから何を学ぶかが大切であると説きます。
■自分の特徴に気付き、適切な努力をする
「プロとして大成するためには、努力と才能のどちらが大切ですか?」と時折、質問される。将棋の世界においても、棋界を統一するような何十年に1人の王者は子供の頃から特別視されている。しかし、プロを目指す大部分やほとんどのプロ棋士にとってさえ、それは他人事だ。才能の足りない所は努力で補うしかない。
持って生まれた才能は変える事ができないし、やみくもな努力は効率が悪い。自分の特徴に気付き、適切な努力をする事こそが、これまでの自分を変える最良の方法ではないか。人はそれぞれ得意な事が違うので、自分に合ったジャンルを見つけて、自分に合った方法で力を発揮すればいい。
難しそうに思える事でも、やってみれば案外できてしまう事は多い。大人になってからだって、将来の事は未知数だ。過去の自分を覆しながら、自分の可能性に挑戦していけばいい。
■勝つための将棋
「勝つための将棋」ではなく「正しい将棋」を指したい。どんな勝負でも一手一手を全力で考え、最善手を追い求める。それが「正しい将棋」だと信じていた。数学で例えるなら、すでに証明されている公式があるにもかかわらず、それを使う事を潔しとせず、さらに合理的な定理を追い求めるようなものだ。人間が指す将棋に絶対というものがない以上、棋士は常に「正しい将棋」を求める姿勢を失ってはならない。
しかし、プロとして戦っていく以上、理想ばかりを追い求めるのではなく、結果を出さなくては意味がない。数学のテストで公式を使わなければ、全問解けないまま試験時間が過ぎてしまうだろう。
勝つために自分のこだわりを捨て、序盤を研究の成果に頼るように頭を切り替える。将棋における研究とは「傾向と対策」を予習しておく事だ。序盤の攻防は、ある程度はパターン化された戦型で行われる事が多い。ならば、序盤は日頃の研究の成果を信じてテンポ良く進め、難問が待ち構える中盤から終盤に余力を残しておいた方がいい。
但し、プロ棋士同士であれば、同じテクニックは何度も通用しない。勝つためには、研究を怠らず、さらに地力を蓄えなければならない。そのために必要なのは、結局、日々の地道な努力だ。
著者 森内 俊之
1970年生まれ。将棋棋士 小学六年生で勝浦修九段に師事し、1982年、奨励会に入会。同期に羽生善治、佐藤康光、郷田真隆らがいる。1987年、四段に昇段、プロ棋士に。 2002年、第60期名人戦で丸山忠久を破り、名人位を獲得。2007年、名人位の通算獲得数が5期となり、十八世名人の資格を得る。 2014年2月現在、竜王・名人。名人位の通算獲得数8期は、大山康晴、中原誠に次ぎ、木村義雄と並ぶ歴代3位タイ記録。
Chikirinの日記 ちきりん |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.3 | 2分 | |
第1章 竜王戦 | p.13 | 12分 | |
第2章 将棋との出合い | p.37 | 21分 | |
第3章 若手棋士 | p.79 | 21分 | |
第4章 名人への道 | p.121 | 16分 | |
第5章 羽生さんとの名人戦 | p.153 | 12分 | |
第6章 私の勝負哲学 | p.177 | 19分 | |
おわりに | p.216 | 1分 |