「大いなる分岐」はなぜ起こったのか
1500年代〜1970年代末までの間、西洋人は「その他世界」人にはおよびもつかないほど豊かになり、世界の生活水準には大きな格差が生じた。人類の1/5を占めるに過ぎない少数派が、これほどの物質的・政治的優位に立ったのはなぜか?
地理的要因とそれが農業に及ぼした影響は、ユーラシアがその他地域よりも繁栄した理由にはなっても、ユーラシアの西端がなぜ1500年以降、東端をしのぐ繁栄を遂げたのか、その理由を説明する事はできない。何が大いなる分岐を引き起こしたのかという問いに答えるには、制度が果たした役割に目を向けるのが一番だ。人間の組織には2つの段階がある。
①アクセス制限型のパターン
低成長経済、比較的少数の非国家的組織、中央集権的な政府が被統治者の同意を得ずに運営される、個人や王家のつながりをもとに組織された社会的関係
②アクセス開放型のパターン
急速な経済成長、多くの組織からなる豊かな市民社会、大規模で分権的な政府、法の支配などの、非人格的な力が支配する社会的関係
イギリスを筆頭とする西ヨーロッパ諸国は「アクセス制限型」から「アクセス開放型」に初めて移行した国々だった。国家がこれを実現するためには「制度的しくみを通じて、エリート間の非人格的関係が生まれるような環境を整え」、「政治的・経済的機構へのアクセスをエリート層の間で開放させるインセンティブを考案し、維持する」必要がある。この時点でエリートの個人的な特権が、非人格的な権利へと変換される。アクセス開放によって、経済と政治の領域で開かれた競争が正当化された。特権階級の「収奪的」な政治制度ではなく、「包括的」な政治制度を築く事で、西洋は発展してきたのだ。
なぜ西洋は衰退しているのか
西洋と東洋の大いなる再収斂の始まりを理解する上で、この枠組みは有効である。今の西洋世界が抱える経済、社会、政治上の問題は、かつて世界で最も優れていた、西洋の制度が衰退している事の表れであり、現在深刻な危機を迎えている。
①金融規制の脆弱さ
政治プロセスが複雑であるため、規制は逆効果を生じかねない。例えば監督機関は、規制される側に取り込まれる事がある。現在の規制は複雑なせいで、脆弱性をかえって高めてしまう。
②法の支配の劣化
アメリカでは1969年以降、政府の有効性と説明責任、規制の質、汚職の抑制という4つの点で、ガバナンスの質が低下している。どんな政治制度も、主に組織化された利益集団によるレントシーキング行動のせいで、時と共に硬化する。
③市民社会の空洞化
政党、労働組合、慈善団体、あらゆる組織の会員数が減少し、市民社会が空洞化している。問題は政府が過去50年にわたって、市民社会の領域を過度に侵害するようになった事である。