ハーバード大学歴史学の教授が「なぜいま西洋は衰退しているのか」、その原因を論じた本です。かつて、西洋文明がその他の地域に対して産業革命を起こすことで成功した要因を解説し、その枠組みが壊れてしまった現在について説明しています。
■西洋の衰退の原因は単なるデレバレッジではない
西洋は停滞している。世界銀行は2012年に、ヨーロッパ経済は収縮し、アメリカの成長率は2%に落ち込むと予測。一方、中国はその4倍、インドは3倍のペースで成長すると見込まれた。
こうした西洋の減速に対する流行の説明に「デレバレッジ(債務の圧縮)」というものがある。債務圧縮という痛みを伴うプロセスが、その原因だという。デレバレッジ論によれば、愚かにも右肩上がりの不動産神話をあてこんだ家計や銀行が、必死で債務を減らそうとしている。そして消費を抑え貯蓄を増やそうとしたために、総需要が落ち込んだ。そのプロセスで致命的な債務デフレーションが起きるのを防ぐべく、公的部門は財政・金融刺激策をもって介入しているが、今度は公的部門が債務超過危機に転じるリスクが生じている。
しかし今生じているのは、単なるデレバレッジではない。問題は、西洋の法と制度にある。
西洋が文明としての成功を収める上でカギとなった諸制度が、現在深刻な危機を迎えている。私たち人間は、複雑な制度の格子の中に暮らしている。そこには政府がある。市場がある。法律がある。市民社会がある。かつては、この格子は驚くほどうまく機能していて、すべての制度が互いを補足し、補強し合っていた。これこそが18〜20世紀の西洋の成功を支えたカギだ。だが、現代の制度は、たがが外れてしまっている。
これからの時代に、諸制度を元の状態に戻し、大いなる衰退を覆すこと、真に自由な社会の基本原則に立ち戻る事が、私達の課題である。
アダム・スミスが論じたように、国家が定常状態(豊かだった国が成長を止めた状態)に達するのは、その「法と制度」が衰退し、エリートによるレントシーキング(自己利益への誘導)が、経済と政治のプロセスを支配する時だ。これこそが、まさに今日の西洋世界の重要な分野で起きている事だ。
著者 ニーアル ファーガソン
1964年生まれ。ハーバード大学歴史学教授 ケンブリッジ大学講師、オックスフォード大学教授を経て現職。スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェロー、オックスフォード大学ジーザスカレッジシニアリサーチフェローも兼務する。 経済・金融史の専門家として、数多くの書籍を出版。新聞・雑誌へも精力的に寄稿している。2004年、雑誌タイムの「世界で最も影響力のある100人」で選ばれる。
週刊 ダイヤモンド 2014年 3/1号 [雑誌] BNPパリバ証券経済調査本部長 河野 龍太郎 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
序章 なぜ西洋は衰退したのか | p.1 | 17分 | |
第1章 ヒトの巣―民主主義の赤字 | p.27 | 22分 | |
第2章 弱肉強食の経済―金融規制の脆弱さ | p.61 | 22分 | |
第3章 法の風景―法律家による支配 | p.95 | 24分 | |
第4章 市民社会と非市民社会 | p.133 | 19分 | |
結論 大いなる衰退論からの示唆 | p.163 | 14分 |
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