キャラクターは癒しの存在
「ハローキティ」に代表されるような、無表情なキャラクターの事を「むひょキャラ」という。「リラックマ」「くまモン」「なめこ」など最近ヒットしたキャラクターは、無表情で設定もそれほど精緻ではなく、弱くて小さな物語しか持っていない。これに対し、アメリカ生まれのキャラクターは、一般に表情が豊かで喜怒哀楽がはっきりしている。ディズニー・キャラクターは、まるで人間のようにコミュニケーションをとる事から、人間同士の絆のように共感性が高く、感情的かつ精神的な絆を持ちやすい。
人々は、ディスニー・キャラクターとは、人間を相手にしたようなコミュニケーションをとり、サンリオ・キャラクターには、人間に隣接した別の親密な存在として感情移入すると考えられる。それはペットとの関係に近い。
日本人の「むひょキャラ」好きは、他者とのコミュニケーションを嫌う現代人の傾向が要因の1つであるといわれる。アメリカ的な喜怒哀楽がストレートな表現は、リアルな世界での人間とのコミュニケーションに近い。従って、人間関係が連続してしまい「安らぎ」を得られないどころか、むしろストレスを感じてしまう場合がある。多くの日本人が求めているのは、自分の感情や考えをそのまま投影する事ができて、何気なくそこにいてくれるキャラクターなのである。無表情なら、自分の思った事や感じた事に、いつでも同意してくれる存在になる。
複雑な人間関係に疲れた現代人にとって、何も言わずじっと自分のそばで見守ってくれるキャラクターは「癒し」の存在である。人間関係が希薄になっているからこそ、人間ではないものにまで感情的な潤いを求め、感情移入する。
なぜ、「ゆるさ」が必要なのか
AKB48も一種の「ゆるキャラ」である。日本社会には「下手」「素人」「隙」「不完全さ」を魅力として捉え、むしろ完璧なものより好む傾向がある。モノづくりにおいて「完璧さ」を追求する一方、堅苦しさをほぐすかのような「ゆるさ」への嗜好は、精神のバランスをとるためのものといえる。
「ゆるい」という言葉の裏には「ダメさ」や「ウカツさ」がある。何か不完全で劣っている存在に、特別な心地良さや心理的な親密さを感じるのはなぜか。洗練されていない「未成熟」なキャラが支持される要因の1つに、現代社会の「成熟拒否」という価値観が関係している。経済的なインフラが整い豊かになるとともに、少子化が進んで「子供であること」の価値は相対的に高まったという。そのため、子供から大人になるまでの期間が長期化した。つまり、個人が成熟する必然性が減少していき、人々は成熟に魅力を感じなくなってきたのである。