靴下卸売業タビオの会長が、『孫子』の教えを自身の起業エピソードをふまえて解説している本です。
■孫子との出合い
『孫子』との出合いは、60年ほども前、大阪の靴下問屋に丁稚奉公に出た1955年まで遡る。大阪での生活は、周囲から叱られるばかりで、厳しくも辛いものだった。その年の6月頃、先輩に連れられ、近所の夜店に行った時、古本屋の前で、中学校の職員室で掛けられた先生の言葉が過る。「中国古典を読め。読書百遍、意自ずから通ずだ。諦めず、分かるまで読め」 中国古典はあるかと古本屋の店主に尋ね、『孫子』と書かれた本を中身も確かめずに買って帰った。
消灯後、トイレに行くふりをしては、深夜の帳場で勉強した。3年くらいで『孫子』全篇を暗記した。しかしそれでも、状況は変わらず、朝から晩まで馬鹿にされ、サンドバッグ代わりにされる日々。その時、『孫子』の抱える大きな欠陥に気づいた。つまり、将軍のために書かれた実践の書でありながら、そこには将軍になる方法が、一切書かれていなかった。
やがて1968年、「ダン」の商号で靴下卸売業を創業し、経営者という名の将軍になる日がやってきた。
始計篇が「孫子」の中で一番肝心だというのは、いざ何かを始めようとする時に、「五事」「七計」で比較すると、彼我の優位と不利とが客観的に見えてくるからである。
「五事」
戦争に勝つためには、5つの基本条件がある。将たるものは、これをよく認識してこそ勝つ事ができる。
①道:民衆と為政者の意思を一致させるもの
②天:天候、季節、時制などの時間的条件
③地:距離、険しさ、広さ、高さなどの地理的条件
④将:智謀、信義、仁愛、威厳、勇気など、将が備えるべき徳性
⑤規律、軍隊の編成、装備が整っているか
「七計」
これらの条件が充たされているか、双方の優劣を比較し、その実力を把握する。
①君主は、どちらが正しい政治理念を持っているか
②将の能力はどちらが上か
③天の時と地の利は、どちらに有利か
④法はどちらで厳正に守られているか
⑤兵士はどちらが強いか
⑥部隊の訓練は、どちらがよくできているか
⑦賞罰はどちらが公正に行っているか
著者 越智直正
1939年生まれ。タビオ 代表取締役会長 中学校卒業後、父の遺言で大阪の靴下問屋キング靴下鈴鹿商店に丁稚奉公。以来、靴下一筋の人生を歩む。1968年独立、靴下卸売業ダン(現・タビオ株式会社)を創業。 2000年大阪証券取引所2部に靴下専業企業として初の上場を果たす。2006年英国ロンドンに海外初となる店舗を開店。靴下の製造・卸・小売で業界のトップの座に就く。2008年末、代表取締役会長に就任。
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
日経トップリーダー |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.1 | 3分 | |
序章 『孫子』について | p.15 | 11分 | |
第1章 実戦・始計篇(上) | p.37 | 29分 | |
第2章 実戦・始計篇(中) | p.95 | 12分 | |
第3章 実戦・始計篇(下) | p.119 | 8分 | |
第4章 その他十二篇の名言と教え | p.134 | 37分 | |
おわりに | p.208 | 3分 |
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