破壊的イノベーションが勢力図を変える
2024年までの間にグローバルな自動車産業に起きる変化は、これまでにない大きなものになる。未来のシナリオとして、全世界に20以上ある有力自動車メーカーの数が半減すると共に、残った10弱の自動車メーカーも業界の中の主要プレイヤーではなくなる。自動車業界を破壊する要因は次の2つである。
①ちゃちで安価な新興国製の電気自動車(2020年頃)
②シリコンバレー製の自動操縦車(2024年頃)
どちらも既に実現しているが、性能が低いないしはコストが高いという事で自動車業界はまだその脅威に対して安心しきっている。こうしたイノベーションの脅威に対し、業界の大多数の方々は「知ってるよ」「あんなのおもちゃだよ」という反応をする。
破壊的イノベーションの脅威が現実のものになるまで通常35〜50年ほどかかる。
・最初のイノベーションの種が発明され、商品として市場に出現する(15年)
・おもちゃの性能は幾何級数的に進化し、それまでの商品を圧倒する(10年)
・最初のイノベーションを小馬鹿にしていたメーカーが淘汰される(10年)
このイノベーション技術サイクルは、ペニシリンや化学繊維、コンピュータからロボットまでどのようなイノベーションにもほぼ当てはまる。
中国農村部に、安価でちゃちな新興メーカー製電気自動車の登場が目立ち始めたのは2009年頃。そしてグーグルが完全に自動で運転する自動車を開発してアメリカの道路を100マイル走破したのが2010年頃だった。この2つの破壊的イノベーションが、現在の自動車産業の安定した構造を破壊する時期をセオリーから推定すれば、2020〜2024年にかけてという事になる。
電気自動車はガソリン自動車と3つの点で基本装備が異なる。エンジンがない、変速機がない、ガソリンタンクがない。電気自動車はエンジンの代わりにモーターで動かす。モーターは他のメーカーでも開発できるコモディティ製品である。そのため、電気自動車は、トヨタや日産でなくても、ヤマハでもブリヂストンでも、名も無いメーカーでも製造販売できる。
この事は近い将来、自動車業界が、かつてIBMを頂点としていたコンピュータ産業がパソコン時代にピラミッドが崩壊していったのと同じ道をたどる可能性がある事を示している。
未来の自動車産業で勝ち抜ける企業を考えるには、電気自動車に世の中が変わっても依然重要な自動車部品は何なのかを見ればいい。タイヤ、窓ガラス、ヘッドランプ、車のシートといった部品メーカーは電気自動車の脅威を受ける事はない。
自動操縦車も破壊的イノベーションの1つである。自動操縦車の時代になると、自動車産業の中で儲かるのは、グーグルをはじめとする一部のIT企業という事になるはずである。