ミミズの目
ある時点で自分の周りには何かがある事に気が付いた。それは木の根のようにも見えたし、広漠とした泥だらけの子宮の血管のようにも見えた。赤黒い色を鈍く光らせ、はるかかなたの上方から垂れ下がって、はるかな下方の深淵へと伸びていた。地中深くに潜っているミミズのような目で、周囲の絡み合った木の根を眺めている具合だった。汚泥の中からグロテスクな動物たちが顔を突き出し、吠えたり甲高く叫んだりしては、また泥の中に引っ込んだ。ときおり低いうなり声も聞こえてきた。
ゲートウェイの世界
ここを出なくてはならない。その時、上方の暗がりから何かの姿が現れた。ゆったりと回転しながら、金色がかった絹糸のような白い光を燦々と放射している。光に照らし出され、周りの闇が崩壊し始めた。やがて光の真ん中に、開いたすき間が出現した。ゆるゆると回転している光そのものを通して、その「向こう側」を見ていたのだ。その事に気付いた途端に、私は上昇し始めた。開口部をくぐり抜けると、見た事もない別世界が広がっていた。
下には田園風景が広がっていた。私は木や野原、小川や滝を見下ろしながら飛んでいた。あちこちに人の姿も見えた。ただ美しい、夢のような世界。どれほどの時間を飛び続けたのかはわからない。やがて、自分は1人ではない事に気が付いた。隣を見ると、それは深いブルーの目をした美しい女性だった。眼下の村人たちに似た服を着て、蝶の羽根に乗っていた。女の人は言葉を介さずに語りかけてきた。「あなたは永遠に、深く愛されています」
コアの世界
そこには一面に雲が浮かんでいた。上空のはるかな高みでは、キラキラ輝く透明の光の球が、弓なりに弧を描いて空を横切りながら飛び交っていた。上空からは、聖歌のように荘厳な大音響が響き渡ってきた。
神の存在は極めて間近に感じられ、自分との間に全く距離がないように思えた。それと同時に神が無限に広大である事がわかり、それに対して自分がいかにちっぽけであるかを思い知らされた。そこにいる間は、質問と回答が続いた。宇宙は1つではない。お前の理解を超えるほど数多い宇宙がある。しかしすべての宇宙がその中心に愛を持っている。どの宇宙にも邪悪は存在しているが、ごくわずかでしかない。邪悪が存在しなければ、自由意志を持つ事ができない。自由意思なくして、発展が得られない。邪悪はそのためにこそ必要とされてきたが、全体から見れば愛が圧倒的に優勢であり、最終的に勝利を収めるのは愛である。その場所で無数の宇宙に豊かな生命が息づいているのを見た。数限りない高次の次元がある事も知った。
帰還
私はコアの世界を離れ、来た道を戻っていた。再び暗がりに降りていきながら、高次の場所に何があるか承知していた私はもう狼狽する事はなかった。私は7日ぶりに目を醒した。