重要なのは気質である
知能至上主義に疑問を投げかける学者は、子供の発達に最も重要なのは、最初の数年の内にどれだけたくさんの情報を脳に詰め込めるかではないと言う。本当に重要なのはそれとは全く異なる「気質」、つまり粘り強さや自制心、好奇心、誠実さ、物事をやり抜く力、自信などを伸ばすために手を貸せるかどうかであると言う。心理学者や神経学者たちは、ここ数十年の間、こうした気質がどこから生じ、どうやって伸びるのかについて研究を重ねてきた。
幼少期のストレスが生涯に影響を及ぼす
「子供時代の逆境(ACE)の研究」では、子供時代の逆境と成人してからのネガティブな結果の間には非常に深い相関関係があるという。ACEの数値が高ければ高いほど、喫煙、アルコール依存症、心臓病や慢性気管支炎、自殺などの割合が高いという結果がでた。逆境によるストレスが、発達段階の体や脳にダメージを与えるのである。
特に幼少期に負荷をかけすぎると、長期にわたる深刻な悪影響が体にも、精神にも、神経にも様々に出てくる。この原因は、ストレスそのものではなく、ストレスに対する反応にある。人体のストレス対応システムは、酷使すればやがて壊れてしまうのである。
脳の中で幼少期のストレスから最も強く影響を受けるのが前頭前皮質、つまり自分をコントロールする活動、感情面や認知面におけるあらゆる自己調整機能において重大な役割を果たす部位である。このため、ストレスに満ちた環境で育った子供の多くが、集中する事やじっと座っている事、失望から立ち直る事、指示に従う事などに困難を覚える。それが学校の成績に直接影響する。
ストレスの前頭前皮質への影響の中には、不安と抑鬱もある。多くの場合、ストレスの影響は主に思考を制御する能力(実行機能)を弱める形で出る。認知をつかさどる特定の機能が前頭前皮質にあるからだ。実行機能にかかわる能力は家庭の経済状況と深い関係がある。貧困に伴うストレスが、実行機能を阻害するのである。
前頭前皮質は脳の他の部位よりも思春期や成人早期になっても柔軟性を保っている。だからもし環境を改善して実行機能を高める事ができれば、その子供の将来は劇的に改善される可能性がある。
親の愛着で子供のストレスを和らげる
研究では、幼少期のストレスの悪影響に対して絶大な効果を発揮する解毒剤がある事もわかっている。子供を育み、親密な関係を築ける親や養育者なら、子供たちの持つレジリエンス(回復力、抵抗力などの弾性)を大きく伸ばす事ができる。質の高い育児は逆境による子供のストレス対応システムへのダメージを和らげる強力な緩衝剤として働く。幼少期の愛着関係が生涯にわたる影響を生むのである。