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53番目の社員

孫はアカデミアの後、すぐに動き出していた。ヤフーがどのような状況にあるのか、部下を通じて情報を集めていた。社長の井上や経営幹部とも極秘に面談を重ねている。なぜヤフーがこうなってしまったのか。これからのヤフーはどうあるべきか。議論の末、1つの決断を下す。ヤフーの経営陣を世代交代する。そして、指名したのが、創業2年目のヤフーに53番目の社員として入社した宮坂学だった。宮坂は黎明期のヤフーのメディアビジネスを数多く手掛け、創業期のヤフーには珍しい攻めのタイプで、顧客リスト片手に電話をかけまくり、アポイントメントなしで営業に飛び込む突進力は社内でも有名だった。

まず、登る山を決める

宮坂は社長就任にあたって誓った。自分たちには、井上のように大局を見渡し、必要な決断をほぼ1人で下し、その進捗を細かく監視しながら指示を出していくスタイルは無理だ。ならば、徹底的に自分たちの考える経営というものをオープンにし、その考えに沿って社員に自律的に行動してもらうしかない。ヤフーの経営に当たって「この山に登ろう」といった大きな目標は掲げるが、細かい登り方までは指図しない。無論、自分のやり方が正しいかどうかはやってみないと分からない。だから、何度も挑戦して、何度失敗してもそれを許容し、次に挑戦できる環境をつくっていく。

宮坂は開かれた経営を実現するために「ヤフーは何のために存在するのか」を経営陣で議論し、再定義した。宮坂がヤフーを改革する上で最も難しいと感じていたのは、社員の意識をどう変えるかだった。一般に改革が必要とされるのは、企業が経営危機に陥った場合である。だがヤフーは業績としては何の問題もない。いわば、改革の前提となる決定的な危機意識の共有が難しいのだ。宮坂はその解を、ヤフーという会社の使命を再定義する事に求めた。

「僕らは課題解決エンジンを目指し、何よりもユーザーファーストを考える」

これが新生ヤフーの「理念」とも言えるコンセプトとなった。孫はこう言った。「多くの経営者が自分の判断に迷うのは、目標が明確ではないからだ」 会社のあるべき姿を定めた理念が企業の生き様だとすれば、目標は具体的な行動計画に当たる。数字と期限を具体的に記した目標を持つべきだと、孫は繰り返した。

「201×年までに、営業利益を2倍にする」という結論を出した。目標が厳しければ戦い方は案外スパッと決まる。そのために策定した戦略が「オンリーワン」「異業種最強タッグ」「未踏領域への挑戦」の3つだった。150以上のヤフーのサービスから、利益2倍の目標達成に有望なサービスを絞り込み、そこに資源を集中的に投下する。事業を補完し合える相手とは積極的に連携し、大胆な出資・提携もいとわない。さらに、新分野に進出し、新たな事業の柱も育成していく、とした。