三ツ星レストラン『タイユヴァン』で修行し、リピート率80%の人気レストラン『ル・クロ』をつくったシェフが、最高のおもてなしに必要なものとは何かを説く。
■成功の鍵は高い価値「基準」を持つこと
レストランビジネスが成功するのも、お客様が満足するのも、もっと言えば自分自身が納得できる生き方すらも、「才能」ではなく「基準」が鍵を握っている。高い価値基準さえ身につけられれば、特別な能力がなくても逆境をうまく乗り越えて物事をスムーズに運べるようになる。
どんなお店でも真の格というものは、そこで働くスタッフが持つ「基準」によって決まる。働く人が、それぞれどんな基準を持って仕事に臨んでいるかが、豪華絢爛な内装や店の歴史以上にお客様に格式として認識される。
三ツ星を三ツ星たらしめている裏側には、厳格な基準がある。その三ツ星基準があるからこそ、料理もサービスも、すべてがいつでも超一流であり続けられる。
■三ツ星を支える鍵は情報にある
三ツ星のオーナーやシェフにとって、星の数は「命」と同じだと言っても過言ではない。絶対に星を落としてはならない。星を落とすという事はそのままお客様の期待を裏切る事につながるからである。
そこで徹底されていたものが情報共有である。三ツ星レストランでは伝票にお客様1人ひとりの細かな情報が記載され、サービスマンと調理場でしっかり共有される。料理やワインの好みはもちろん、政治的な理念、家族構成、仕事やプライベートでの重要な出来事など、予約の時点で、そうしたお客様の情報が整理されてシェフ・ド・パルティ(部門シェフ)が理解し、ミーティングの際に打ち合わせる。「前回の接待と違って、今日はプライベートだから少しゆっくり料理をお出しする」というように、お客様が来店される前からベストのサービスを考えているのが三ツ星の基準である。
三ツ星では、30年間お店に通い続けているお客様の食べたメニューや細かい好みもすべて記録していて、どんなシチュエーションで来店したかという事もわかっている。三ツ星を支える鍵は情報にある。情報がなければ、常に最高の料理やサービスは提供できないのである。
最高のおもてなしとは、お客様が望まれている事を先読みし、気配り・心配りに生の情報を加味して形にすること。そこには一切の妥協がない。よく空腹は最高の調味料だと言うが、お客様の空腹が好みの料理と心地良いと感じる接客で満たされれば、それは最高のおもてなしになる。情報はそうした「お腹の空腹」と「気持ちの空腹」のどちらも満たすために必要なものである。
著者 黒岩功
1967年生まれ。レストラン『ル・クログループ』オーナーシェフ 指宿商業高校卒業後、大阪辻調理師専門学校にて19歳で調理師免許を取得、21歳で全国司厨士協会の調理師派遣メンバーとしてスイスに渡る。ヨーロッパで3年間、三ツ星レストラン「タイユヴァン」「ラ・コート・サンジャック」、二ツ星レストラン「ジラール・ベッソン」のシェフらに師事し、本場のフランス料理を学ぶ。 帰国後、いくつかの有名料理店でスーシェフ、料理長を勤めたのち、2000年にフレンチレストラン「ル・クロ」をオープン。1号店は路地奥の和食店を改装したことから「和の雰囲気、和の食材を使いお箸で召し上がれる本格フレンチ」として評判を呼ぶ。2004年にオープンした「ルクロ・ド・マリアージュ」のウェディングでは招待状で好きな料理を選べる婚礼プリフィックスが人気になりウェディングの口コミサイトで関西1位に。 現在はパリを含めて4店舗のフレンチレストランを経営する傍らウェディング事業、人材派遣業、ケータリング事業、プロデュース事業、また食育活動を通して社会貢献にも寄与する。
帯 法政大学大学院 政策創造研究科 教授 坂本 光司 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.1 | 3分 | |
第1章 三ツ星で学んだ仕事に役立つおもてなしの基準 | p.15 | 7分 | |
第2章 おもてなしは情報収集から始まる | p.35 | 18分 | |
第3章 リーダーに求められるおもてなし | p.87 | 12分 | |
第4章 最高のスタッフが最高のおもてなしをつくる | p.121 | 12分 | |
第5章 働き方は生き様にまでなる | p.157 | 14分 | |
第6章 おもてなしは繁盛ではなく繁栄をつくり出す | p.197 | 16分 | |
おわりに | p.242 | 1分 |