新しい金持ち
2002〜2006年の経済成長期に、アメリカにおける所得の伸びの内3/4が所得上位1%の人々にわたっていた。しかし、社会格差とは金持ちと貧乏人との格差だけの事ではない。今やスーパーリッチと単なる金持ちとの間にも格差が生まれている。2010年、アメリカの所得上位0.01%の世帯平均所得は2384万ドルだった。ところが上位0.01〜0.1%で280万ドル、上位1%は101万ドル、上位10%で24万ドルだった。
今の金持ちは昔の金持ちと異なる。世界中につながっていて、光の速さで変わりつつある経済は、新しいスーパーエリートを生み出した。その多くは自力で富を築いた者か、そういう者の後継者である。彼らは努力家で、高学歴で、世界を活躍の場とする実力者であるから、世界規模の経済競争を勝ち抜くだけの能力がある事を自負している。彼らは、出身地を同じくする者同士ではなく、似たような立場にある者同士で国境を超えたコミュニティを築きつつある。現代のスーパーリッチは彼らだけで1つの民族を形成しつつある。
プルトクラートの問題
ゲイツを始めとするプルトクラートたちは、慈善事業の世界に衝撃的なほどの影響を及ぼしている。彼らは、社会セクターに資金を出す事ではなく、変化をもたらす事を望んでいる。さらに慈善資本家たちは、政府の仕組みを変える事まで望んでいる。問題は、慈善資本家が、自分の事業やプルトクラートの全体に好都合な政策のために金を出す場合である。
スーパーリッチの時代、我々はエリートの動向に常に注意していなければならない。彼らは政治力を駆使し、経済にさらなる価値を付加してパイ全体を大きくする事ではなく、既に存在するパイの自分の取り分を大きくする事で金儲けしようとする。スーパーリッチとそれ以外の人々との格差が広がるにつれ、割当のしなおしによる利得「レントシーキング」が政治問題として注目を集めるようになっている。最上層の人々は、豊かになればなるほど、ゲームのルールに手を加え、自分に都合のいいものにする能力をつける。それを使いたいという衝動に抗う事は難しい。
格差拡大に対する反応として圧倒的に多いのは、プルトクラートを善玉と悪玉に分けようとする試みである。スティーブ・ジョブズはヒーローで、ロイド・ブランクファインは悪漢である。プライベート・エクイティは極悪非道、コミュニティバンクは高潔だ。しかし、プルトクラートを分類する魔法は存在しないので、誰が価値をつくり、誰がレントシーキングにいそしんでいるかを見分けるのは至難の業である。
重要なのは、実業家の中の善玉と悪玉の差よりも、自分の社会で適切な規則が定められ、その執行を可能にする監視体制が敷かれているかどうかである。