教育格差、男女の格差、世代間格差、地域の格差。格差から生じる、日本における機会の不平等問題を取りまとめた1冊。様々な格差問題について考えさせられます。
■格差社会のはじまり
日本は高度経済成長期の頃からしばらくの間、一億総中流社会と信じられていて、所得分配の平等性が高かった。高度成長期に所得格差の小さい特質が保持された1つの理由は、国民所得が年に10%弱の高成長率で伸びるような好調な経済だったので、国民全員がその利益を受ける事が可能な時代であり、一人ひとりの所得が平等に高くなったからである。しかし、所得の格差の拡大は90年代に入ると徐々に大きくなった。21世紀に入ると格差はますます拡大し、日本は所得格差が大きく、かつ貧困者の数が多いという格差・貧困の社会に突入したのである。
■教育の機会不均等
機会不均等の要因をたどっていくと、その発端になっているのは、基本的には教育の不均等である。現代において、教育機会の不均等の要因として一番に挙げるとすれば、家計所得によって受けられる教育に格差がある事であろう。
実際、親の所得と子供の学力との相関関係を調査したデータがある。文部科学省が2008年に全国の小学六年生と中学三年生全員を対象にした全国学力テストを見ると、親の年収が上がるに従って、子供の学力がアップするという事が、はっきり表れている。但し、ここには親の教育水準や遺伝するかもしれない親と子供の知的能力、親子での勉強への熱心さ、などが背景にあるので、単純に親の所得の高低が子供の学力に直接の影響があると判断するのは早計である。
親の所得は子供の大学進学にも大きな影響を与えている。調査によれば、年収200万円未満の家庭の大学進学率は28.2%、600〜800万円未満で49.9%、1200万円超で62.8%と、年収の差によって30ポイント以上の差が出る結果となっている。
戦後は一般家庭からであっても、子供が望んで、努力すれば、高い教育を受ける事が可能になった。しかし、高度経済成長が終わる頃から、そのような状況が崩れ、教育を受ける機会の不平等が拡大している。その大きな理由が教育費の高騰である。現在の世界各国の大学授業料と比べても、日本の国立大学の学費は極めて高い。日本の教育支出の対GDP比は3.3%で、OECD諸国で二番目に低い。これは国家や地方自治体が教育費用の支出を抑え、家計に負担させている事を表している。従って、経済的余裕のある家庭がより高い教育を受ける事ができ、家計の所得間格差が子弟の教育格差を生みやすい構造になっているのである。
著者 橘木 俊詔
1943年生まれ。京都女子大学客員教授 京都大学名誉教授 専門は労働経済学、公共経済学。
週刊 東洋経済 2013年 11/2号 [雑誌] 早稲田大学教授 原田 泰 |
日経ビジネス |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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まえがき | p.1 | 2分 | |
第一章 機会不均等と公正さ | p.13 | 26分 | |
第二章 男女の機会不均等 | p.59 | 18分 | |
第三章 教育の機会不均等 | p.91 | 22分 | |
第四章 家族を持てない機会不均等 | p.129 | 18分 | |
第五章 世代間の機会不均等 | p.161 | 14分 | |
第六章 地域間の機会不均等 | p.185 | 22分 | |
第七章 その他の機会不均等 | p.223 | 10分 | |
あとがき | p.241 | 2分 |