財政再建の成功の鍵は何か
欧州諸国にとって財政のパフォーマンスに差をもたらした最も重要な点は、政治的なコミットメントの有無であり、さらにそのコミットメントを担保するための予算制度である。2000年代においても引き続き財政黒字を維持しているオーストリアやスウェーデン、カナダなどは、なぜ財政規律を維持する事ができているのか。
ルールを継続的に守るために、まず必要なのは「事前のコミットメント」である。その鍵は、政策立案者が繰り返し、財政ルールや目標の設定に関与する事である。そのアプローチは3つ。
①選挙あるいは政権交代のたびに、政府に中長期の財政戦略や財政ルールなどの導入を義務づける。
②政権発足時に、財政の枠組みやルール・目標を規定する。
③毎年の予算編成過程で、向こう三年分の歳出総額の上限額を国会で議決する。上限の改定はできるが、国会での最議決を要するため、政府は説明責任を求められる。
次に重要な事は「事後のコミットメント」である。それは、財政ルール・目標の遵守を監視する仕組みである。その核心は、ルール違反を国民の前に明らかにし、違反した場合の政治的コストを高める事である。例えば、予測が実績と乖離した場合、その内容と理由を、政策変更によるものか、経済のパラメーターの変化によるものかを分けて説明する。
EUはギリシャ危機を受けて、予算編成の前提の作成やルール遵守を評価する独立財政機関の設置を各国に義務づけている。また、予算制度に加えて、国民が財政再建や財政規律を維持する事を受け入れる事が重要であり、政治家のコミットメントに影響を与える。
なぜ日本では財政再建できないのか
日本の財政の最大の問題は、財政ルールを遵守させるためのコミットメントが弱く、またコミットメントを高めるための予算制度上の仕組みが欠如している事である。政治家などの予算をめぐるプレーヤーには、自律的にルールを守るインセンティブはない。
①赤字ルール
景気変動に対応して安定的に財政運営を行うためのメカニズムが欠如している
②支出ルール
シーリング(概算要求基準)が一般会計当初予算を対象とするため当初予算偏重、一般会計偏重、単年度偏重の問題を生じさせている
③中期財政フレーム
単なる見通しであり支出を拘束せず、ベースラインがない
④透明性
透明性が低く、会計上の操作を抑止できない
⑤意思決定システム
首相・財務大臣が政府の内外に存在する拒否権プレーヤーを制御できない
課題解決には、中期財政フレームに基づき予算を編成すると共に、会計間の操作を抑止するために透明性を高める。財務会計責任を明確にするために、日本版最高財務責任者を導入する。さらに予算に関する意思決定を内閣に集権化する事が必要である。