メーカーや研究機関ではなく、ユーザーが起こすイノベーションを対象にその実態を調査研究した本。インターネットや3Dプリンタなどの普及により、広がりつつあるユーザーイノベーションにも注目すべきだと提言する。
■イノベーションの民主化
「イノベーションの民主化」とは、製品やサービスの作り手であるメーカーではなく、使い手であるユーザーのイノベーションを起こす能力と環境が向上している状態の事を意味する。
現在、メーカーがこれまで独占してきたイノベーションという行為がインターネット技術の進歩・普及や生産技術の発展によって広く消費者に開放されようとしている。そこでは大学やメーカー企業でなくユーザーが主役となり、設計情報は消費者から消費者、あるいはメーカー企業に向かって複製、改変、洗練されながら流れていく。
イノベーションを行う消費者である消費者イノベーターは、既存品では満たす事ができないニーズを満たすために、製品創造や改良、用途開発を行う。消費者が行ったイノベーションは、時に他の消費者に伝わる。他の消費者が、製品をイノベーターから譲り受けたり、複製したりする。そこから、消費者イノベーションの普及が始まる。
消費者イノベーションは次のような順序でイノベーションが起こり、普及する。
ある消費者が製品イノベーションを行う → 他の消費者がその製品イノベーションを本人から購入あるいはコピーする → 類似製品を使う消費者が増加する → ある程度の市場規模が見込めるとわかったところでメーカーが参入する
近年、レーザーの切断から三次元印刷に至るまで、コンピュータを用いた多用多種な製造技術を専門に扱う様々な企業が存在する。個人消費者がその製造プロセスを利用する事ができ、しかも出来上がりは極めて質が高いうえに、価格も手頃だと言われている。消費者が欲しいものを自分で設計し、形にする事が徐々に容易になってきている。
消費材企業にとって必要な事は、消費者イノベーションを技術的に問題のある「素人の作品」としてだけでなく、新しい目線で捉える事である。
「イノベーションの民主化」は、私達の生活をより豊かにする可能性がある。実際、デンマークなどは「イノベーションの民主化」の長所に目をつけ、国内企業のグローバル競争力を強化するために、ユーザー起点のイノベーションを支援する産業政策を策定、実施している。今後は,ユーザーイノベーションから生まれる、イノベーションの普及ルートを促進する政策を考える事も重要になってくる。
著者 小川 進
1964年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科教授 2003年より現職。ユーザー・イノベーション研究では世界的な評価を得ている。 2012年高橋亀吉賞(優秀作)受賞。
週刊 ダイヤモンド 2013年 10/19号 [雑誌] 丸善・ジュンク堂営業本部 宮野 源太郎 |
エコノミスト 2013年 11/26号 [雑誌] 流通科学大学学長 石井 淳蔵 |
日経トップリーダー |
週刊 東洋経済 2013年 11/9号 [雑誌] 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 楠木 建 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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第1章 ユーザーはイノベーションする | p.1 | 18分 | |
第2章 ユーザーは用途をイノベーションする | p.31 | 16分 | |
第3章 リードユーザーが低費用でイノベーションする | p.57 | 16分 | |
第4章 消費者はイノベーションを無料公開する | p.83 | 21分 | |
第5章 消費者の多様性がメーカーの能力をしのぐ | p.117 | 21分 | |
第6章 ユーザーは起業する | p.151 | 15分 | |
第7章 「イノベーションの民主化」研究の背景を知る | p.175 | 16分 | |
終章 イノベーションの民主化から何を学ぶか | p.201 | 9分 |
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2013-11-12
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