ITの進歩によって、個人が力を持つようになった時代、企業はどのように個人を活かしていくべきか。これからの企業と個人のあり方を示し、企業と個人はそれぞれ何をすべきかを説く。
■個人の力が企業の命運を左右する時代
過去、企業は変化する市場に対応する時、いつも「戦略」という比較的、経営陣が操作しやすいレバーを動かしてきた。「ターゲットとする顧客セグメントを変える」「営業体制を変える」といった戦略の変更を決断し、トップダウンで実行させる事が経営であり、それが成否を決めてきた。
しかし、変化の激しい市場においては「今、市場でどんなビジネスのタネが生まれつつあるか」「誰と組めば実現できそうか」を的確に判断しなければならない。ところが、経営陣たちだけでは、こうした判断を的確に下せなくなっている。次々と登場してくる新しいニーズ、新しい競合相手を間近で見ているのは現場にいる社員である。社員、取引関係者たちの嗅覚・肌感覚こそが、そのまま企業の命運を左右するようになってきた。
ネットでの情報収集がオープンにできるようになった今、どの階層であろうが、情報感度・理解力を持つ人が、新しく柔軟な視点を持てるようになっている。だが、この現実に、大半の企業は気が付いていない。
アグリゲーターとは、ビジョンを掲げ、社内や社外の人・技術・アイデアを取り込みながら、企業や市場を創造的破壊し、新しいサービスを作り上げようとする人々である。
現段階では、アグリゲーターになり得る人たちが社内にいたとしても、従来の経営を続けているならば、その能力を十分に活かせないだろう。そうなるとアグリゲーターたちは、自己実現するべく独立していく。「個人の働き方」が変わろうとしている現在、企業経営も、個人のアグリゲーター化を促進する形に変わる必要がある。
アグリゲーターが活躍する組織を作るには、以下のポイントが重要である。
①企業と個人の「ビジョン」を整合させ、共鳴させる
企業のビジョンは、個人との共感を生み出す事で、潜在パワーを最大活用できる。
②「人財」は「教育」ではなく「学習」で育てる
アグリゲーターを育てるには、大胆に仕事を任せ、自らの学習を奨励し「血脈」で人財を育てる。
③未来を読んで動ける企業体質づくりこそが戦略
数年単位で戦う市場自体が変化する事を前提に、どこで戦い、何をやるか、どうやるかを考え・実行するサイクルを高速で回す事を体質化する。
④「経営資源配分」はイノベーション・ポートフォリオで
イノベーションのパターンに応じ、経営資源の配分を変え、どの組織を受け皿として事業を開発していくかを巧みに使い分けるため「イノベーション・ポートフォリオ」の考え方を導入する。
⑤「ワークスタイル」は従来の枠組みを外せ
個人を管理すれば成果が出ると考えるのではなく、いかに価値創造に集中できる環境を提供できるかを考える。
⑥動かす「仕組み」の基本設計思想は、自立化、モジュール化、可視化
今後の経営に求められる仕組みの設計には、個人が市場の先端を探り続ける事を後押しする「自立化」、目的に応じ自在に組み合わせ、組み替え可能な「モジュール化」、情報共有の時間・コストを圧倒的に下げる「可視化」の3つの基本設計思想を埋め込む必要がある。
⑦「組織能力」はニュートン型とダーウィン型のバランス
プロジェクトの成果、人の成長をみながらニュートン型組織(決められた指示が出されると、決められた動き方をする集団)とダーウィン型組織(市場環境の変化に順応し、新しいものを生み出したり、特定の分野や場所にフォーカスしたりして結果的に生き残っている集団)のバランスを設計していくこと。
著者 柴沼俊一
1973年生まれ。シグマクシス パートナー 日本銀行にて、国内外の経済調査、金融機関のモニタリング業務に従事。在職中、経済産業省へ出向し、産業金融政策に携わる。その後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、国内外金融機関、電機メーカー、商社の全社戦略、組織改革の企画立案・実行支援に従事。 かざか証券にて、オンライントレード部長、経営戦略・営業企画・商品部の担当役員として全社の経営に携わる。現在、コンサルティング及び事業開発・ 再生を専門とするシグマクシスのパートナー。グロービス経営大学院准教授。
著者 瀬川明秀日経ビジネス副編集長 日経BPビジョナリー経営研究所主任研究員 1990年、日経BP社入社。日経ビジネス、日経新聞産業部、日経ベンチャーなどを経て、複数の媒体の立ち上げをしてきた。現在は日経ビジネス、日経ビジネスオンラインで編集・執筆。 研究所での専門分野はデジタルコミュニケーションとスタートアップ。
日経ビジネス |
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
エコノミスト 2013年 10/22号 [雑誌] |
週刊 ダイヤモンド 2013年 10/12号 [雑誌] |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
はじめに | p.1 | 6分 | |
第1章 個人と企業の問題は一度に解かなければならない | p.17 | 37分 | |
第2章 企業経営を変える三つの武器I・C・M | p.75 | 18分 | |
第3章 硬直化した企業組織をどうやって壊せばいいのか | p.103 | 21分 | |
第4章 アグリゲーターが活躍する時代 | p.135 | 16分 | |
第5章 アグリゲーターを生み出す組織 | p.159 | 13分 | |
第6章 イノベーションパワーを拡大する七つの要素 | p.179 | 18分 | |
第7章 「人財育成」と「イノベーション」は同時に進めよ | p.207 | 19分 | |
第8章 二〇三〇年 社会、企業、働くワタシ | p.237 | 20分 | |
おわりに | p.268 | 5分 |
組織は戦略に従う [Amazonへ] |
競争の戦略 [Amazonへ] |
社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論 [Amazonへ] |
動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか [Amazonへ] |
今日の芸術 (講談社文庫) [Amazonへ] |
21世紀の歴史――未来の人類から見た世界 [Amazonへ] |
イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press) [Amazonへ] |
ジェフ・イメルト GEの変わりつづける経営 [Amazonへ] |
不格好経営―チームDeNAの挑戦 [Amazonへ] |