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2013/10/27更新

ペンギンが空を飛んだ日―IC乗車券・Suicaが変えたライフスタイル (交通新聞社新書)

167分

2P

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0.2秒の壁

1995年4月、第1次フィールド試験の結果を受けて様々な部分を改良し、第2次フィールド試験に臨む。今回は短波を使い、通信領域が読み取り装置の上部に「半球型」のエリアが被さるようにした。しかし、結果は満足には遠く、依然として磁気式の4倍も通過阻害率があった。さらに当時は、超薄型バッテリーは開発されておらず、カードにでっぱりが出てしまうなどの難しさを経験した。

1997年4月、第3次フィールド試験が始まった。問題はICカードと読み取り機の間の通信時間や通信の不確かさにあるのではないか。そう考え、乗客の動きをビデオに撮って分析したところ、カードをかざす時間が0.2秒を切るモニターがかなりいる。しかし、この段階で処理時間を縮めるのは不可能だった。何度も対策を探る会議が開かれ、プロジェクトの1人が発した言葉が扉を開いた。「ICカードをかざすのではなく、触れるようにしたら・・・」
カードをどこかに触れる事を目標に動かすとカードの軌跡はV字を描き、時間が延びる。その後、Suicaの基本コンセプトとなった「タッチ・アンド・ゴー」が誕生した。技術的に解決するのが困難な課題を「運用」で解決したのである。創る側の理論ではなく、使う側の視点で「ものづくり」をする事が大切である。

130億円を回収せよ

1997年5月、「ICカードプロジェクト」が設置された。当初のメンバーはたった2名。プロジェクトは立ち上がったが、少しの猶予もなかった。磁気式改札機の老朽取り替えの期限が迫っている。

「ICカードプロジェクト」の感触は手応えのあるものだったが、何人かの幹部は否定的な意見を持っていた。問題はやはり莫大な投資額である。ICカードシステム導入経費は約130億円。誰もが納得できる「費用対効果」を提言する事が最大の課題といって良かった。

JR東日本にはリスクを徹底的に避ける手堅い経営方針があった。100戦100勝が当然の目標で、最低限でも100戦100分けという企業風土がある。ICカードの導入で、そう簡単に「増収になる」など口に出せない雰囲気が根本的にあった。増収が駄目なら、メンテナンスコストの削減でいくしかないと決断した。実際、従来の磁気式出改札機にはトラブルが多く、券詰まりなど現場の対応やお客様からのクレームは大きな問題だった。これが非接触式ICカードシステムに変われば、メンテナンスコストが大幅に下がり、10年で投資の元が取れ、10年目以降はコストが削減できる。

鉄道ICカードが中心となって定期券、SFカードの機能で拡大を目指し、その後に決済機能で「駅ナカ」へ事業展開する。そして銀行やクレジット会社を活用し「街ナカ」まで事業を広げる未来図を描いたプレゼンが功を奏し、Suicaの導入が決定した。