期待を変える必要がある
金融緩和は、人々の期待を変えない限り、効力を発揮しない。そして、期待を変える事は簡単ではない。
「失われた20年」とは、日本人が「あまりお金を使わなかった」時期の事だ。不況だと騒ぐ一方で、個人金融資産は増加し、企業の内部留保も積み上がった。そして、この国の経済は良くならない、デフレから脱却できないという感情を抱くようになった。だからこそ、自らの国に対して十分な投資をしようという気になれなかったのだ。
日本経済における大きな問題は少子高齢化にある。その結果、投資需要は縮小し、それが実体経済に多大な影響をもたらす。しかし、少子高齢化が起こっているからといって、デフレになる必然性はない。少子高齢化によって労働力人口が減少すると、資本に比べて労働力が稀少になる。その結果、労働分配率が上昇し、効率的な資本の限界生産力は低下する。ゆえに、企業が資本を過度に蓄積しないよう、実質金利を低く抑えなければならない。そのためには、マイルドなインフレが必要とされる。
日本経済は世界のロールモデルになれるか
はたして「アベノミクス」は人々の「期待」を動かせるのか。アベノミクスがもたらした最もわかりやすい変化は円安である。投資の分野でもある程度の変化がみられた。しかし、今の段階で何かを語るのは時期尚早だろう。
インフレ目標の数値については、4%が適切だ。しかし、今すぐ4%のインフレ目標を提示する事が政治的に不可能であるなら、まずは2%という数字は妥当だ。この政策実験がうまくいけば、まさに日本は世界各国のロールモデルになる事ができる。アベノミクスによって本当にデフレから脱却できるなら、それは将来同じ状況に陥った国に対しても、大きな示唆になるからだ。
ハイパーインフレは起きない
金融緩和が「財政ファイナンス」につながる、という懸念を示す人たちがいる。日本のように巨額の財政赤字を抱える国が紙幣を印刷する事でしか資金を得られなくなった時、ハイパーインフレという話は当然出るだろう。しかし現実には、今の日本に差し迫った問題は存在しない。
日本は過去にハイパーインフレを経験したが、それは破滅的な戦争が起こったからだ。ハイパーインフレは中央銀行がその機能を強化するから生じるのではなく、ガバナンスの崩壊によって引き起こされる。
インフレは一度暴走し始めたら止める事は不可能で、あっという間にハイパーインフレになると語る人物を信用してはいけない。方法論的にそれは何の問題もなく制御できる。