インフレターゲットを提唱するノーベル経済学者が、日本の経済政策について語った1冊。アベノミクスの評価が書かれている。
■金融緩和の成功条件
日本銀行はマネタリーベースを2年間で倍増させる「異次元の金融緩和」を打ち出した。金融緩和には、大きく分ければ2つの成功条件がある。
①人々が持つ将来への期待を変えること
これはさらに2つに分類できる。まずは、国家の経済は将来的に落ち込まない、と人々が信じること。その時点でマネーストックの増加がインフレを誘発するという、望ましい状況がもたらされる。もう1つは中央銀行が実際に、その金融緩和を実現に移す、と信じられることだ。もし、将来、インフレが到来すると人々が信じれば、お金の使い方にも変化が生まれてくる。
②短期金利がゼロであること
長期金利が0.9%くらいなら、民間部門の借入金利は政府部門よりも高くなる。そこで中央銀行が長期国債を買えば、長期金利の上昇を抑制し,民間部門の返済負担を軽減できる。
FRBもECBも、中央銀行が金融緩和を行って経済をてこ入れしている。こうした手法は王道と言って良い。しかし日本国内における一部の識者は世界標準の方法論に反対し、金融緩和批判に固執してきた。
日本経済における大きな問題は少子高齢化にある。その結果、投資需要は縮小し、それが実体経済に多大な影響をもたらす。しかし、そうした条件下の経済ではデフレになるのが必然である、という考え方は間違いだ。むしろ、だからこそ実質金利を大きく引き下げ、あるいはマイナスにしなければならない、と考えるべきではないか。そこではインフレが必要とされている。日本経済の長きにわたる失敗の歴史は、日銀の政策が「船に乗り遅れた」からにすぎない。
金融緩和によって名目金利が一定に抑えられている環境の中で、期待インフレ率が上がれば実質金利は下がる。そこで投資を行いやすい環境が生み出され、景気が刺激される事になる。そして、国民がインフレが訪れると確信すれば、手元の資産は目減りが予想されるので、さらにお金を使う理由が生まれる。同時にそのインフレによって日本の国家債務も減少し、国民負担も軽減する。
アベノミクスという政策実験は、「モデルとしての日本をどのように世界に示せるか」という、経済の未来を占う上で決定的に重要な役割を担っている。アベノミクスによって本当にデフレから脱却できるなら、それは将来同じ状況に陥った国に対しても、大きな示唆になる。
著者 ポール・クルーグマン
1953年生まれ。プリンストン大学教授 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授 イェール大学助教授、マサチューセッツ工科大学教授、スタンフォード大学教授を経て、現職。 大統領経済諮問委員会の上級エコノミスト、世界銀行やEC委員会の経済コンサルタントを歴任。ニューヨークタイムズ紙の辛口コラムニストとしても絶大な人気を誇る。 1991年、40歳以下の最も優れた経済学者に贈られるジョン・ベイツ・クラーク賞受賞。2008年、ノーベル経済学賞受賞
日本経済新聞 福井県立大学地域経済研究所 特任教授 中沢 孝夫 |
週刊 ダイヤモンド 2013年 10/5号 [雑誌] |
帯 イェール大学名誉教授 浜田 宏一 |
帯2 評論家 宮崎 哲弥 |
週刊 東洋経済 2013年 10/12号 [雑誌] |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
プロローグ | p.3 | 5分 | |
第1章 「失われた20年」は人為的な問題だ | p.21 | 19分 | |
第2章 デフレ期待をただちに払拭せよ | p.55 | 14分 | |
第3章 中央銀行に「独立性」はいらない | p.81 | 14分 | |
第4章 インフレ率2パーセント達成後の日本 | p.107 | 21分 | |
第5章 10年後の世界経済はこう変わる | p.145 | 16分 | |
エピローグ | p.175 | 3分 |
投機バブル 根拠なき熱狂―アメリカ株式市場、暴落の必然 [Amazonへ] |
機械との競争 [Amazonへ] |